メスを1〜2週間かけて仕上げる
繁殖に使うメスは、事前に1〜2週間かけて栄養価の高い餌で仕上げます。腹が膨らんで抱卵しているのが分かる状態まで持っていってください。仕上がっていないメスを入れても産卵せず、オスに攻撃されるだけの結果になります。
Betta splendens / Siamese Fighting Fish
かんたんに言うと
オスが泡の巣を作って子を育てます。単価は高いですが、選別で9割以上が売り物になりません。
撮影: ivabalk / CC0(パブリックドメイン)
繁殖の難易度
1回の産仔数
30〜500匹
初産は少なく、成熟したメスほど多く産む
産卵から出荷サイズまで
91〜122日
約3〜4か月
ベタはオスが水面に泡の巣を作り、卵と稚魚を守る魚です。空気呼吸ができるラビリンス器官で空気を吸い、唾液と混ぜて泡にして巣を組み上げます。メスを巣の下へ誘い、体を巻きつけて(抱擁)産卵させ、沈んだ卵を口で拾って巣へ運ぶ。この一連の行動は、観察対象として他のどの繁殖方式にもない見応えがあります。
一方で、ベタの繁殖には他の魚にない3つの制約があります。
ひとつ目は、ペアの相性です。相性が悪いとオスがメスを執拗に攻撃し、殺してしまうことがあります。だからメスを透明な容器に入れて浮かべる「お見合い」が必須の工程になります。
ふたつ目は、稚魚の呼吸です。**ベタの稚魚はラビリンス器官を持って生まれてきません。**生後3〜6週かけて発達します。それまでは鰓呼吸だけで生きており、器官が未成熟なうちに冷たく乾いた空気に触れると、恒久的な呼吸器の損傷を負うか死にます。だから水位を下げて密閉度の高い蓋をし、温かく湿った空気の層を作る必要があります。この制約は泡巣という繁殖方式に固有のものです。
みっつ目が、採算に直結します。**オスは互いに殺し合うため、成長したら1匹ずつ瓶に分けなければなりません。**生後9週から3か月で色とヒレが出はじめ、互いのヒレを裂き合うようになるからです。50匹のスポーンならオスは約25匹。つまり瓶が25本と、その全部の水換えが要ります。
単価は確かに高い魚です。通販ではトラディショナルが1匹800円、ハーフムーンが2,300円、一点物は5,600円。小型テトラが1匹90〜100円であることを考えれば8倍から56倍です。それでも採算が合わない理由は、下の採算の項に書きました。
親を用意してから、稚魚が出荷サイズに育つまでの流れ。帯の長さが、その段階にかかる日数の目安です。
親魚を繁殖できる状態に持っていく
オスとメスを合わせる
繁殖行動が起きる
孵化までの管理
卵から出てくる
稚魚が泳ぎ始め、餌を食べ出す
オスメスを見分けて選別する
販売できるサイズに到達
繁殖に使うメスは、事前に1〜2週間かけて栄養価の高い餌で仕上げます。腹が膨らんで抱卵しているのが分かる状態まで持っていってください。仕上がっていないメスを入れても産卵せず、オスに攻撃されるだけの結果になります。
4〜10リットル(20〜30cm)の小さな水槽で構いません。フィルターは不要か、あっても水流を殺します。オスが泡巣を作るので水位は低めにし、浮草を入れて巣の足場にします。水温は26〜28℃。そして最も重要なのが蓋です。密閉度の高い蓋をして、水面と蓋の間に温かく湿った空気の層を作ってください。この理由は稚魚の工程で説明します。
注意 蓋をしない、あるいは水位を満水にすると、後で稚魚が全滅します。ここは手を抜けません。
メスを透明な小さい容器に入れて繁殖水槽に浮かべ、オスに見せます。オスが興味を示すと泡巣を作りはじめます。巣が完成したらメスを放ってください。ここで抱擁(オスがメスに巻きつく)が起き、産卵します。オスは沈んだ卵を口で拾って泡巣へ運びます。これを何度も繰り返し、合計30〜500個ほどになります。
コツ お見合いを飛ばさないでください。オスが泡巣を作っていない状態でメスを入れても意味がありません。
注意 相性が悪いとオスがメスを執拗に攻撃し、殺してしまうことがあります。攻撃が激しすぎたら即座に中止してメスを取り出してください。この繁殖方式は生き物を傷つける可能性があるので、準備なしに始めないこと。
産卵が終わったら、ただちにメスを取り出してください。オスは巣と卵を守る態勢に入るため、そばにいるメスは即座に攻撃対象になります。オスはそのまま残します。落ちた卵を拾って巣へ戻すのが仕事だからです。孵化までは24〜48時間です。
注意 ここでメスを出し忘れると殺されます。産卵の終わりを見逃さないでください。
孵化した稚魚は、しばらく泡巣にぶら下がったまま過ごします。落ちた稚魚はオスが口で拾って巣に戻します。この時期にオスを取り出すと、落ちた稚魚がそのままになります。オスの仕事が終わるのは、稚魚が自力で泳ぎ出したときです。
稚魚が泳ぎ出したらオスを取り出します。ここから初期飼料が要ります。ベタの稚魚は極端に小さく、ブラインシュリンプの幼生では大きすぎて食べられません。最初の数日はインフゾリアを与え、その後ブラインシュリンプ幼生に移行します。インフゾリアは培養に時間がかかるので、産卵させる前から仕込んでおいてください。
注意 ここが最も致命的な工程です。**稚魚はラビリンス器官を持って生まれてきません。**生後3〜6週かけて発達します。それまでは鰓呼吸だけで生きており、器官が未成熟なうちに冷たく乾いた空気へ触れると、恒久的な呼吸器の損傷を負うか死にます。蓋を開けっ放しにしない。水位を下げて温かく湿った空気の層を保つ。この3〜6週を越えられるかが繁殖の成否を分けます。
生後9週から3か月で、オスに色とヒレが出はじめます。同時に互いのヒレを裂き合うようになるため、この時点でオスを1匹ずつ別の容器へ分けなければなりません。これをジャーリングと呼びます。ここが採算に直結します。50匹のスポーンならオスは約25匹。つまり瓶が25本と、その全部の水換えが要ります。しかも販売サイズまでさらに1〜2か月かかるので、その間ずっと瓶を占有し続けます。
注意 ジャーリングが遅れるとオス同士がヒレを裂き合い、商品価値が消えます。
生後3〜4か月で販売できるサイズになります。ここで採算の現実を見てください。実際にベタを商業繁殖していた人の記録によれば、1ペアから50匹生まれても、利益が出るグレードになるのは3〜4匹だけです。残りの46〜47匹は、瓶と餌と労働を消費した上で売り物になりません。単価が高いことは、この歩留まりの悪さで完全に相殺されます。
2026年7月17日時点の調査。相場は品種・グレード・時期で変動します。
仕入れ値(1匹)
800〜5,600円
まとめ買いで単価が下がる
親ペア
3,500〜3,500円
店頭での販売価格(1匹)
800〜5,600円
ショップの価格。個人が同額で売れるという意味ではない
| 繁殖形態 | 泡巣 — オスが水面に泡の巣を作り、卵と稚魚を守る。産卵数が多い一方、ペアの相性と隔離のタイミングが難しい。 |
|---|---|
| 成魚サイズ | 60〜70mm |
| 寿命 | 3〜5年 |
| 適水温 | 22〜30℃ |
| 繁殖適水温 | 26〜28℃ |
| pH | 6〜8 |
| 性成熟まで | 150〜150日 |
| 産卵から孵化まで | 1〜2日 |
| 稚魚の初期飼料 | インフゾリアを最初の数日。その後ブラインシュリンプ幼生へ |
| 親の隔離 | 必要(親が稚魚・卵を食べる) |
| 雌雄の見分け方 | オスはヒレが長く体色が鮮やか。メスはヒレが短く地味で、腹部に卵巣がある。一目で分かる。稚魚は生後9週〜3か月でオスの色とヒレが出はじめる。 |
| 原産地 | タイ |
| 入手先 | 量販店、専門店、通販、オークション |
| 相手 | 相性 | 理由 |
|---|---|---|
| オトシンクルス | 注意 | 日本語圏では「最も相性が良い」とされ、攻撃されることがほとんどない。ただしベタは基本的に単独飼育が最善とされており、個体差も大きい。 |
| コリドラス | 注意 | 底層とベタの上層で遊泳域が重ならない。ただし隠れ家が必須で、稀に突かれる。 |
| グッピー | 避ける | グッピーのオスは尾が大きく、ベタに別のオスのベタと誤認されて攻撃される。ヒレを齧られる。 |
| ミナミヌマエビ | 避ける | 捕食される。ベタはエビを食べる。 |
| ベタ(オス同士) | 避ける | 逃げ場がなければどちらか、または両方が死ぬまで戦う。絶対に同居させない。 |
| スマトラなどのバーブ類 | 避ける | ヒレをかじる習性があり、ベタの長いヒレが標的になる。 |
繁殖そのものより、ここでつまずく人のほうが多いです。
ベタの稚魚がラビリンス器官を持たずに生まれてくるという事実は、この魚の飼育要件のほとんどを説明します。蓋をする理由も、水位を下げる理由も、温かく湿った空気層が要る理由も、すべてここから導かれます。生後3〜6週という期間は、繁殖に手を出す人が最初に越えるべき壁です。
なお成魚も同じで、水面の空気に定期的にアクセスできないと溺れます。水槽を満水にして密閉すると死ぬ魚、というのは他ではあまり聞きません。
【価格】2026-07-17 に charm(チャーム)の実売ページで確認。トラディショナル(オス・色指定なし)800円、青系/赤系920円、マルチカラー980円、メス900円。クラウンテール1,150円、青系1,610円。ダブルテール1,330円。スーパーデルタ1,500円。ハーフムーン2,300円(メス1,500円)。プラカット(HMPK)2,070円、1ペア3,500円。エレファントイヤーPK 2,880円。鯉ベタHMPK 3,450円。ギャラクシー4,830円。一点物HM(オレンジ・オス)5,600円。品種で最大7倍差。 比較のため同日に確認: ブラックネオン50匹4,500円=1匹90円、カージナルテトラ(ブリード)50匹5,000円=1匹100円。**ベタは小型テトラの約8倍(最安同士)〜56倍(一点物)**。 【採算の実例 — 原文を確認】元熱帯魚ショップ勤務でベタを商業繁殖していた人のブログ(優しい熱帯魚さん、2019-05-01)に次の記述がある。「1ペアから50匹生まれても、利益が出るようなグレードの固体はせいぜい3,4匹だからです」「1匹2000円で卸せたとしても8000円」「販売まで4ヶ月程度かかるので、かなり水槽の本数が必要になります」「ベタだけの売り上げは一番いいときでもせいぜい月3万円程度でした」。 → **実効単価は 8,000円 ÷ 50匹 = 160円/匹**。テトラ並みの単価を、テトラの何十倍の手間で得ている計算になる。単価2,000円は「選別に生き残った個体だけを見た数字」であり、繁殖事業としてはスポーン単位で見ないと実態を誤る。 確度:中(一次情報だが個人ブログ・単一の情報源・2019年時点の実体験)。ただし「販売まで4か月」は英語圏の複数の情報源とも一致するためこの部分の確度は高い。なお著者自身がベタ繁殖を明確に非推奨としている。 【稚魚のラビリンス器官】稚魚はラビリンス器官を持って生まれてこず、生後3〜6週で発達する。それまでは鰓呼吸のみで、器官が未成熟なうちに冷たく乾いた空気へ触れると恒久的な呼吸器損傷または死に至る。出典は Aquariadise・NippyFish(アクア専門メディア。査読文献ではないため確度は中〜高)。成魚が湿った空気層への定期的なアクセスを必要とすることは Seriously Fish が明記(確度:高)。 【情報源が食い違う項目】 ・産卵数: 12〜492個(Wikipedia)/30〜500個(一般情報)/50〜100・多くて200(日本語圏)。ここでは30〜500とした。 ・孵化: 24〜48時間(Seriously Fish)/24〜36時間(Wikipedia)。 ・泳ぎ出し: 孵化後3〜4日(SF)/2〜3日(Wikipedia)。両方を含む2〜4日とした。 ・原産地: タイ中部(SF)/カンボジア・ラオス・ミャンマー・マレーシア・タイ・ベトナム(Wikipedia)。 ・親が稚魚を食べるか: SF は「成魚が仔魚を食べることは通常ない」とするが、日本語圏では「オスが食べる」とされ食い違う。実務上は泳ぎ出しでオスを隔離するのが定説。 【裏付けが取れなかった項目】性成熟までの日数は「約5か月」という記述が単一の情報源にあるのみで確度が低い(オスをジャーリングする生後9週〜3か月とは別の概念)。繁殖の間隔、硬度、電気代・餌代・瓶代を含む純利益、2026年時点の卸値はいずれも裏付けなし。 【主な情報源】charm(販売ページ)、Seriously Fish、Wikipedia(英語)、PetMD、Aquariadise、NippyFish、breedingbettas.com、GEX、東京アクアガーデン、キョーリン、優しい熱帯魚さん。