クロダイ
Acanthopagrus schlegelii / Blackhead seabream
かんたんに言うと
関西でチヌと呼ばれる黒っぽいタイの仲間。河口から磯まですみ、オスからメスに性転換する。30歳近くまで生き、近年はノリやアサリの食害が問題に。
撮影: TMDSA / CC BY-SA 3.0
目次
大きさ
30〜60cm
すむ水
海水・汽水
在来種
毒・危険
記載なし
公的資料に毒の記載は見つからなかった
クロダイは、北海道南部から九州までの沿岸にすむタイの仲間です。関西では「チヌ」と呼ばれ、釣りではこちらの名前のほうがよく使われます。体は灰黒色〜銀黒色で、大きいものは全長60cmほどになります。汽水域にもすむので、河口や漁港の中、川の下流にも入ってきます。
クロダイの大きな特徴は、オスとして生まれ、成長するとメスに性転換することです。生まれてしばらく(2〜3年ほど)はオスで、3〜5歳ごろに多くがメスになります。ただし一部はオスのまま残り、高齢の大きなオスもいます。また耳石(頭の中の小さな骨)の年輪を調べた富山県の研究では、約30歳の個体が見つかっていて、思われていたより長生きの魚です。
何でも食べる雑食性で、貝やカニを殻ごとかみ砕くといわれる丈夫な歯を持っています。近年は東京湾や瀬戸内海などで数が増え、養殖ノリやアサリ、カキを食べる被害(食害)が大きな問題になっています。水産庁はノリの主な食害生物をクロダイとし、対策に取り組んでいます。
警戒心が強く引きも強いので、磯・堤防・河口での釣りの人気の対象魚です。
クロダイの見分け方
- 体は灰黒色〜銀黒色の、いかにもタイらしい体つき。背ビレに鋭いトゲが11〜12本並ぶ。
- 腹ビレ・尻ビレが黒っぽい(黄色ければキチヌ)。
- 若い個体は体の横に黒っぽい横縞が見えることがある。
- 奄美大島より南で見かける「クロダイに似た魚」は、ミナミクロダイ・ナンヨウチヌなどの別種。
似ている魚との違い
| 似ている魚 | どこで見分けるか |
|---|---|
| キチヌ | 「キビレ」とも呼ばれる近い仲間。腹ビレ・尻ビレ・尾ビレの下側が黄色い(クロダイは黒っぽい)。体色もクロダイより明るい。背ビレと側線のあいだのうろこの列が3.5〜4.5列。産卵期は秋(クロダイは春〜初夏)。 |
| ヘダイ | 全体に白っぽく、体の横に細い黄色の縦すじがある。成魚はクロダイよりやや沖に多い。 |
| マダイ | 桜色(淡いピンク)で、体の横に小さな青い点が散らばり、尾ビレのふちが黒い。色がまったく違うので見分けやすい。 |
| メジナ | メジナはメジナ科で、体は灰色がかった青緑。同じ磯でよく一緒に釣れる。 |
分布と生息環境
北海道南部から九州までの沿岸にすんでいます。国外では朝鮮半島南部・中国の中北部沿岸・台湾にもいます。琉球列島にはいません。
水温が下がると沖へ移り、水温10℃以下ではノリ漁場に現れないとされます。ただし三重県の伊勢湾では、近年は冬も湾内に残ってノリを食べることがあると報告されています。
資源(数)は海域によって違い、東京湾(千葉県)では資源尾数が2004年の約194万尾から2017年の約272万尾へ約1.4倍に、兵庫県の瀬戸内海では30年前の約10倍になっている可能性が示されています(1漁協のデータ)。三重県は「高位・増加」、愛知県は横ばいです。
汽水域から沿岸の岩礁まで。湾内・浅い岩礁・河口・漁港の中に多く、川の下流に入ることもある。稚魚は、ふ化後1か月ほど海を漂ったあと砕波帯に着底し、アマモ場などの浅い場所で育つ。
生態(食べもの・産卵)
何でも食べる雑食性で、フジツボ・カキなどの付着生物、貝、ゴカイの仲間、海藻、ほかの魚まで食べます。秋の水温が下がる時期には海藻をよく食べ、冬は潮間帯のアオノリを好みます。ノリを食べるのは体長30cm以上の大きな個体で、1匹が1日に板ノリ約2枚分(湿重量約40g)を食べるという試験結果もあります(香川県)。一方、広島湾の調査では、全長7.5〜13.4cmの稚魚はアサリの水管をかじるだけで、アサリを直接死なせてはいませんでした。
産卵期は4〜6月ごろ(千葉県・香川県)で、広島湾では5月下旬〜6月中旬がピーク、産卵は夜に行われます。成熟は、オスが満3年、メスが満4年とされます(三重県)。春に産卵のため浅場に群れで入ってくる時期を、釣り人は「乗っ込み」と呼びます。
性転換:台湾の研究では、生後約4か月でオスに分かれ、その後約3年間は卵巣と精巣の両方の組織を持ち、3歳ごろにメスに変わりました。日本の飼育魚では、2歳ではほとんどがオス、3〜4歳で約半数がメスでした。何cmでメスに変わるかを示した一次資料は見つかっていません。香川県の試験では、獲れたオスの平均年齢が14歳で、「大きいクロダイはみなメス」とは言えません。
成長の速さは海域で大きく違い、東京湾では3歳で尾叉長30cmを超えますが、瀬戸内海(岡山・香川のノリ漁場の周辺)では体長30cmになるのにおよそ10年かかっています。
クロダイの釣り
一年中釣れますが、産卵前の春(3〜5月)と、よく食べる秋(10〜11月)が盛期です。磯・堤防・漁港・河口、湾内のイカダや小舟からもねらえます。千葉県では、釣りで採る量が漁業の漁獲量と同じくらいと推定されるほど、遊漁の人気が高い魚です。
代表的な釣り方は、ウキフカセ釣り、堤防の際を探る落とし込み釣り(関東では「ヘチ釣り」)、ヌカなどのダンゴでエサを包んで底へ沈めるダンゴ釣り(紀州釣り)、イカダ釣り・カセ釣り、ルアーでねらう「チニング」などです。エサはオキアミや練りエサが一般的で、貝やカニ、ゴカイのほか、サナギやコーン、スイカにまで反応することがあります。警戒心が強く、人影に敏感です。
背ビレのトゲは鋭いので、素手で強くつかまないでください。同じ磯や堤防では、トゲに毒のあるアイゴやゴンズイ、ハオコゼが釣れることもあります。
採ってよい大きさは都道府県によって違います(例:広島県では10cm以下の採捕は禁止)。釣る地域の漁業調整規則を確認してください。
家で飼えるか
全長60cmほどまで育ち、30年近く生きることもある海水〜汽水の魚です。家庭で飼うときの方法を示した公的・専門的な資料は、今回の調査では見つかりませんでした。栽培漁業の施設でさえ「野性味が強く、親魚と稚魚の飼育は困難を極めた」と記録されています。
法律・ルール
採ってよい大きさや時期は都道府県の漁業調整規則で決まっている場合があります。国の瀬戸内海漁業取締規則にはクロダイの大きさの制限はありませんが、たとえば広島県では10cm以下の採捕が禁止されています。全都道府県を確認したわけではないので、釣る地域の規則を必ず確認してください。
富山県・千葉県などでは、稚魚を育てて放流する栽培漁業も行われてきました。一方で、ノリ・アサリ・カキの食害対策として、水産庁はクロダイを積極的に獲って利用することを提言しています。
国際自然保護連合の評価は「低懸念」です。
基本データ
| 分類 | タイ科(Sparidae) |
|---|---|
| すむ水 | 海水・汽水 |
| 別名 | チヌ |
| 大きさ | 300〜600mm |
知っておきたいこと
関東では、小さい順に「チンチン」「カイズ」「クロダイ」と呼び分ける釣り人が多く、50cmを超える大物は「年無し(としなし)」と呼ばれます(境目の大きさは決まっておらず、釣り人の慣用です)。北陸では「カワダイ」と呼ばれることもあります。
奄美大島より南の南西諸島にはクロダイはおらず、ミナミクロダイ・ナンヨウチヌ・ヘダイなどの近い仲間がすんでいます。
タイの仲間の中で、冬に潮間帯のアオノリなどの海藻を好んで食べるのはクロダイだけの特別な生態とされています(水産庁)。これが冬のノリ養殖の食害につながっています。
よくある質問
クロダイとチヌは同じ魚ですか?
クロダイは性転換するのですか?
クロダイとキチヌ(キビレ)の見分け方は?
クロダイは何年生きますか?
クロダイがノリやアサリを食べて問題になっているのはなぜですか?
クロダイは川にもいますか?
クロダイ釣りの時期はいつですか?
クロダイに毒はありますか?
数値の根拠と情報源
【名前・分類】学名・英名は FishBase。チヌの呼び名は水産庁「ノリ養殖における食害防除のために」(令和8年3月)と愛知県水産課。関東の呼び分け・年無し・カワダイは Honda 釣魚図鑑・釣りコラムのみ(確度は中)。
【大きさ・寿命・成長】全長60cm程度は新潟県 佐渡地域振興局。約30歳は富山県水産研究所(平成28年度成果、富山湾320尾の耳石)。東京湾の成長は千葉県「沿岸重要水産資源 令和6年度漁獲動向 クロダイ」、瀬戸内海の成長と大型・高齢魚は水産庁冊子。
【見分け方】キチヌのヒレの色は FishBase(Acanthopagrus latus)と Honda 釣魚図鑑。クロダイ側のうろこの列数は釣りメディアで5.5と6.5に分かれ、学術資料で確認できなかったため書いていない。メジナとの見分けを直接書いた資料は見つからなかった。
【分布・すみ場・食べもの】新潟県、FishBase、三重県「令和7年度三重県沿岸種資源評価 クロダイ」、水産庁冊子(冬にアオノリを好む・1日の摂食量・ノリを食べるのは30cm以上)。稚魚がアサリを殺さない点は重田・冨山(2021)広島大学総合博物館研究報告13。
【産卵・性転換】産卵期は千葉県・水産庁冊子(香川県)、広島湾のピークと夜の産卵は科研費19580205(海野徹也、広島大学)。成熟年齢は三重県。性転換は Wu ほか(2010)General and Comparative Endocrinology 167(抄録)、北村ほか(1992)水産増殖40(4)、新潟県、愛知県。高齢の雄は水産庁冊子(香川県の試験)。何cmで変わるかは一次資料で確認できず書いていない。
【食害と増えた理由】水産庁冊子、千葉県「ノリ養殖におけるクロダイ食害の実態」、岡山県水産研究所(ノリ・カキ・アサリ)、静岡県水産技術研究所 浜名湖分場(アサリ)。増えた理由は「考えられる」「諸説あり明確でない」という各資料の書き方のまま載せた。
【釣り】Honda 釣魚図鑑・釣りコラム、千葉県(遊漁の採捕量)。
【規則】広島県「遊漁者の皆様へ」(クロダイ10cm。条文本体と全長・体長の別は未確認)、e-Gov 瀬戸内海漁業取締規則(クロダイの条文なし)。
【安全】毒については FishBase で「人に無害」。クロダイ固有の寄生虫の公的記載は見つからなかった(アニサキスの注意は海の魚一般のもの)。環境省レッドリストでの扱いは確認しきれていない。
海の魚のほかの種
海水
ゴンズイ
Plotosus japonicus
黄色い縦帯とヒゲ8本が目印の海のナマズの仲間。背ビレと胸ビレのトゲに毒があり、死んでいても刺される。夜釣りで釣れたら素手で触らない。
海水
アイゴ
Siganus fuscescens
磯や堤防で釣れる、白い斑点の平たい海の魚。背ビレ・腹ビレ・尻ビレのトゲに毒があり、死んでも刺される。西日本ではバリと呼ぶ。
海水
ハオコゼ
Paracentropogon rubripinnis
浅い藻場や岩場にいる全長10cmほどの小さなオコゼ。背ビレのトゲに毒があり、刺されると数時間〜数日痛む。死んでも毒は残るので素手で触らない。
海水
シロギス
Sillago japonica
砂浜や内湾の浅い砂地にすむ細長い銀色の魚で、投げ釣りの代表的な対象。毒は無い。よく似たアオギスは絶滅危惧種で、色では見分けられない。