泡巣 アナバス 親が稚魚を食べる

ドワーフグラミーの繁殖

Trichogaster lalius / Dwarf Gourami

かんたんに言うと

ベタと同じ泡巣ですが、オス同士が殺し合わないので瓶に分ける必要がありません。

ドワーフグラミーのオス。メスは体色が地味で、背ビレが丸みを帯びる。

撮影: André Karwath aka Aka / CC BY-SA 2.5

繁殖のしやすさ

ふつう

1回の産仔数

300〜800

初産は少なく、成熟したメスほど多く産む

性成熟まで

180〜365

約6〜12か月で繁殖できる大きさに

実売単価(1匹)

865〜1,150

通販・店頭の実売。あなたが売るときの競合値でもある

ドワーフグラミーはベタと同じアナバスの仲間で、オスが水面に泡巣を作って卵と稚魚を守ります。ただしベタとは違う点がいくつもあり、その差が繁殖の手間と採算に直結します。

まず泡巣の作り方が違います。ベタが純粋に泡だけで巣を組むのに対し、ドワーフグラミーは水草の切れ端や小枝、浮遊物を泡に編み込みます。これが巣の結合力を高めます。同じ泡巣という方式でも、素材の使い方が違うわけです。

繁殖の条件も違います。飼育の適温は22〜27℃ですが、繁殖させるには28〜30℃まで上げる必要があります。通常飼育より高い水温が要るというのは、他の多くの魚と逆です。加えて水位を7〜10cmまで下げます。オスが卵を巣へ運ぶ距離を短くするためです。

そして最大の違いが、採算に効きます。ドワーフグラミーのオスは、互いに縄張り争いはするものの、相手を殺すほどの攻撃性がありません。ベタのオスは逃げ場がなければ死ぬまで戦うため、育ってきたら1匹ずつ瓶に分けなければなりません。50匹のスポーンならオスは約25匹、つまり瓶が25本と、その全部の水換えが要ります。ドワーフグラミーにはこれが不要です。設備コストという一点では、ベタより圧倒的に有利です。

ただしこの魚には固有の重い問題があります。DGIV(ドワーフグラミー・イリドウイルス)です。シンガポール産の個体の22パーセントが保有しているとされ、しかも同じ水槽の他の種にも感染します。専門サイトが「ショップで買った個体は12か月以内に死ぬことが多い」とする主因がこれです。繁殖に使う親を選ぶ以前の問題として、この魚を水槽へ入れることそのものにリスクがあります。

繁殖サイクル

親を用意してから、稚魚が出荷サイズに育つまでの流れ。帯の長さが、その段階にかかる日数の目安です。

  1. 1
    養成 DGIVを疑って親を選ぶ 14〜30日

    親魚を繁殖できる状態に持っていく

  2. 2
    ペアリング 水温を28〜30℃に上げ、水位を7〜10cmに下げる 3〜7日

    オスとメスを合わせる

  3. 3
    産卵・交尾 オスが巣を作り、抱擁して産卵する 1〜2日

    繁殖行動が起きる

  4. 4
    卵の管理 産卵後すぐメスを隔離する 1〜2日

    孵化までの管理

  5. 5
    泳ぎ出し オスを取り出し、インフゾリアを与える 3〜10日

    稚魚が泳ぎ始め、餌を食べ出す

  6. 6
    稚魚育成 稚魚を育てる。瓶に分ける必要はない 180〜365日

    出荷サイズまで育てる

繁殖の手順

1

DGIVを疑って親を選ぶ

14〜30日

この魚の繁殖は、親選びの前に健康の話から始まります。DGIV(ドワーフグラミー・イリドウイルス)というウイルスがあり、シンガポール産の個体の22パーセントが保有しているとされます。感染個体は育たず、しかも同じ水槽の他の種にまで感染させます。専門サイトが「ショップで買った個体は12か月以内に死ぬことが多い」とする主因がこれです。買ってきた個体をすぐ本水槽に入れず、別容器で検疫してください。親には6か月以上、できれば8〜12か月まで育った個体を選びます。

左が発色したオス、右がメス。オスは赤と青の縞模様で派手、メスは銀灰色で地味。この色差で雌雄はひと目で分かる。繁殖には発色の良いオスと腹の張ったメスを選ぶ。
左が発色したオス、右がメス。オスは赤と青の縞模様で派手、メスは銀灰色で地味。この色差で雌雄はひと目で分かる。繁殖には発色の良いオスと腹の張ったメスを選ぶ。

撮影: Felix Gertz / CC BY-SA 4.0

注意 DGIV 保有個体を親に使うと、稚魚が育たないだけでなく他の魚まで巻き添えにします。

2

水温を28〜30℃に上げ、水位を7〜10cmに下げる

3〜7日 29℃

ここが他の多くの魚と逆です。飼育の適温は22〜27℃ですが、繁殖させるには28〜30℃まで上げる必要があります。通常飼育のままでは産卵しません。同時に水位を7〜10cmまで下げてください。オスが卵を拾って巣まで運ぶ距離を短くするためです。浮草も必須です。ドワーフグラミーはベタと違い、泡だけでなく水草の切れ端を編み込んで巣を作るからです。メスの隠れ場所も用意しておいてください。

注意 「水温を上げない」「水位を下げない」がこの魚の二大失敗です。

3

オスが巣を作り、抱擁して産卵する

1〜2日 29℃

オス1匹に対してメス1〜2匹で組みます。条件が揃うとオスが浮草の下に泡巣を作りはじめます。泡に水草の切れ端を編み込んで結合力を高めるのがこの種の特徴です。巣が完成するとメスを誘い、体を巻きつけて(抱擁)産卵させます。1回の抱擁で50〜200個、これを繰り返して合計300〜800個になります。オスは卵を巣へ吐き出して収めます。

コツ ベタが卵を口で「拾って運ぶ」のに対し、ドワーフグラミーは「吐き出して収める」という記述の違いがあります。

4

産卵後すぐメスを隔離する

1〜2日 29℃

産卵が終わったら、ただちにメスを取り出してください。オスは巣を守る態勢に入り、近づくメスに攻撃的になります。ベタほど深刻ではありませんが、ストレス下ではメスや稚魚にも敵対的になることが知られています。オスはそのまま残します。孵化までは12〜36時間です。

5

オスを取り出し、インフゾリアを与える

3〜10日 29℃

孵化後3日ほどで稚魚が自力で泳ぎ出します。ここでオスを取り出してください。稚魚はベタ以上に小さく(産卵数が多いぶん1個あたりが小さい)、ブラインシュリンプの幼生では食べられません。最初の1週間程度はインフゾリアが要ります。その後マイクロワームやブラインシュリンプ幼生へ移行します。インフゾリアは培養に時間がかかるので、産卵させる前から仕込んでおいてください。

注意 稚魚の口の小ささはベタ以上です。初期飼料の準備なしに始めると必ず餓死させます。

6

稚魚を育てる。瓶に分ける必要はない

180〜365日 26℃

ここがベタとの決定的な違いです。ドワーフグラミーのオスは互いに縄張り争いはしますが、相手を殺すほどの攻撃性はありません。だからベタのように1匹ずつ瓶へ分ける必要がなく、そのまま一緒に育てられます。ベタは50匹のスポーンでオスが約25匹、つまり瓶が25本とその全部の水換えが要ります。この差が設備コストと労働に直結します。同じ泡巣という繁殖方式なのに、採算の構造がまるで違うのです。成長は環境差が大きく、生後1か月で約1cm、流通サイズ(4〜5cm)まで5〜6か月が目安ですが、水温と産地で4〜12か月と大きく開きます。「産卵から出荷まで何日」と断定できる一次情報が無いため、上の要点カードでは日数を出していません(=わからないものは載せない方針です)。

コツ 性成熟は4〜12か月と幅があり、実務上は6か月以上、理想は8〜12か月とされます。ベタ(約5か月)より時間がかかります。

相場と採算

2026年7月17日時点の調査。相場は品種・グレード・時期で変動します。

実売相場(1匹)

865〜1,150

通販・店頭の実売価格。あなたが買う値段でもあり、売るときの競合でもある=ここに利ざやは出ない

親ペア

1,730〜1,790

この魚は売って儲かるのか

魚は個人でも許可なく売れます。ただし、売って利益を出すのは簡単ではありません。多くの種は安価な量産個体と競合し、販路・送料・死着といった壁もあります。当サイトはその現実を、腕前ではなく市場の構造の問題として、種ごとに数字で確かめています。くわしくは 繁殖は儲かるのか、自分の条件での試算は採算シミュレーターをどうぞ。

基本データ

ドワーフグラミーの基本データ
繁殖形態泡巣 — オスが水面に泡の巣を作り、卵と稚魚を守る。産卵数が多い一方、ペアの相性と隔離のタイミングが難しい。
別名ネオンドワーフグラミー、コバルトブルードワーフグラミー、サンセットドワーフグラミー
飼育のしやすさ ふつう
成魚サイズ60〜88mm
寿命2〜6年
適水温22〜27℃
繁殖適水温28〜30℃
pH6〜7.5
性成熟まで180〜365日
産卵から孵化まで 1〜2日
稚魚の初期飼料インフゾリアを最初の1週間程度。その後マイクロワーム・ブラインシュリンプ幼生へ
親の隔離 必要(親が稚魚・卵を食べる)
雌雄の見分け方オスは体色が鮮やかで背ビレの先が尖り、体長も大きい(通常7.5cm、最大8.8cm)。メスは6cm前後で体色が地味、背ビレは丸みを帯びる。一目で分かる。
原産地パキスタン、インド、バングラデシュ
生息環境北インドからパキスタン、バングラデシュにかけての流れの緩やかな水域。
入手先 量販店、専門店、通販

混泳相性

相手 相性 理由
ネオンテトラ 良い 同サイズで温和。棲み分けが成立する。
コリドラス 良い 底棲で温和。生活層が分かれる。
ラスボラ・ヘテロモルファ 良い 同サイズで温和。好む水質も近い。
ベタ 避ける 同じアナバスで縄張りが競合する。ベタは他魚のヒレを攻撃する。
スマトラなどのバーブ類 避ける ヒレをかじる習性があり、ドワーフグラミーが標的になる。
大型シクリッド・アロワナ 避ける 捕食される。

よくある失敗

繁殖そのものより、ここでつまずく人のほうが多いです。

産卵しない よく起きる

症状
ペアはいるのに、オスが泡巣すら作らない。
原因
水温が繁殖適温に達していない。この魚は飼育適温(22〜27℃)のままでは産卵せず、28〜30℃まで上げる必要がある。通常飼育より高い水温が要るという点で他の多くの魚と逆。
対策
繁殖水槽の水温を28〜30℃にする。あわせて水位を7〜10cmに下げ、浮草を入れる。

買った個体が1年以内に死ぬ よく起きる

症状
導入した個体が育たず、原因不明のまま落ちる。他の魚まで調子を崩す。
原因
DGIV(ドワーフグラミー・イリドウイルス)。シンガポール産個体の22%が保有するとされ、同一水槽の他種にも感染する。専門サイトが「ショップ購入個体は12か月以内に死ぬことが多い」とする主因。
対策
買ってきた個体を本水槽へ直接入れず、別容器で検疫する。感染個体を親に使わない。混泳を前提にするなら検疫は必須。

卵が巣に収まらない

症状
産卵はしたのに、卵が底に散らばったまま孵化しない。
原因
水位が高すぎる。オスが卵を巣まで運ぶ距離が長くなり、回収しきれない。
対策
繁殖水槽の水位を7〜10cmまで下げる。

産卵後にメスが攻撃される

症状
オスがメスを追い回し、メスが弱る。
原因
オスが巣を守る態勢に入っている。ベタほど深刻ではないが、ストレス下では敵対的になる。
対策
産卵が終わったら即座にメスを隔離する。あるいはメスの隠れ場所を十分に用意しておく。

稚魚が餓死する よく起きる

症状
泳ぎ出してから数日で減っていく。
原因
稚魚がベタ以上に小さく、ブラインシュリンプの幼生では食べられない。
対策
最初の1週間程度はインフゾリアを与える。産卵前から培養を仕込んでおく。

知っておきたいこと

注意すべき名前の問題があります。「ゴールデンハニードワーフグラミー」として売られている魚は、Trichogaster chuna という別種(ハニーグラミー)です。ドワーフグラミー(Trichogaster lalius)ではありません。通販で最も安い「ドワーフグラミー系」の商品はほぼこの別種なので、価格を比較するときに混ぜると結論が狂います。

なお本種の学名も過去に Colisa lalia、Trichopodus lalius と呼ばれていた時期があり、古い資料ではそちらで記載されています。

よくある質問

ベタとどちらが繁殖しやすいですか?
手間という点ではドワーフグラミーです。決定的な違いは、ドワーフグラミーのオスは互いに縄張り争いはしても相手を殺すほどの攻撃性がないことです。ベタのオスは逃げ場がなければ死ぬまで戦うため、育ってきたら1匹ずつ瓶に分けなければなりません。50匹のスポーンならオスは約25匹、つまり瓶が25本とその全部の水換えが要ります。ドワーフグラミーにはこれが不要です。同じ泡巣という繁殖方式なのに、設備の要求がまるで違います。ただしドワーフグラミーには DGIV というウイルスの問題があり、繁殖以前に親の健康が読めないという別の難しさがあります。
DGIVとは何ですか?
ドワーフグラミー・イリドウイルスという、この魚に特有のウイルス感染症です。シンガポール産の個体の22パーセントが保有しているとされ、しかも同じ水槽の他の種にも感染します。専門サイト(Seriously Fish)が「ショップで買った個体は12か月以内に死ぬことが多い」とする主因がこれです。買ってきた個体をすぐ本水槽へ入れず、別容器で検疫してください。繁殖に使う親を選ぶ以前の問題として、この魚を水槽へ入れることそのものにリスクがあります。
水温を上げないと産卵しないのですか?
そうです。この魚は飼育の適温が22〜27℃ですが、繁殖させるには28〜30℃まで上げる必要があります。通常飼育より高い水温が要るという点で、他の多くの魚と逆です。あわせて水位を7〜10cmまで下げてください。オスが卵を巣まで運ぶ距離を短くするためです。この2つを外すと、まず産卵しません。
ゴールデンハニードワーフグラミーは同じ魚ですか?
別種です。ゴールデンハニードワーフグラミーは Trichogaster chuna(ハニーグラミー)で、ドワーフグラミー(Trichogaster lalius)ではありません。名前が似ているうえ通販でも隣り合って売られていますが、価格帯も違います(ゴールデンハニーのほうがかなり安い)。当サイトでは価格を比較するときに混ぜないようにしています。
数値の根拠と情報源

【価格】2026-07-17 に charm(チャーム)の実売ページで確認。ドワーフグラミー(オス1匹)1,150円、(メス1匹)1,040円、(1ペア)1,730円=1匹865円。ネオンドワーフグラミー1ペア1,730円。コバルトブルードワーフグラミー1ペア1,790円=1匹895円、(オス1匹)1,000円。

【種の同定に注意】「ゴールデンハニードワーフグラミー」として売られている魚は Trichogaster chuna という別種(ハニーグラミー)であり、本種ではない。charm での価格は3匹1,380円=1匹460円、10匹3,450円=345円と本種よりかなり安い。この2つを混ぜて単価比較すると結論が狂うため、本ページの価格には含めていない。なお本種の学名は過去に Colisa lalia、Trichopodus lalius とも呼ばれていた。

【DGIV(ドワーフグラミー・イリドウイルス)】シンガポール産個体の22%が保有するとされ、同一水槽内の他種にも感染する。Seriously Fish が「ショップ購入個体は12か月以内に死ぬことが多い」とする主因。出典は Seriously Fish および Wikipedia(確度:高)。混泳を前提にするなら検疫が必要。

【ベタとの採算構造の違い】ドワーフグラミーのオスは「非常に暴力的・縄張り的」だが、ベタと違い相手を殺すほどの攻撃性はない("lack the aggression to kill them")。ベタはオスを1匹ずつ瓶に分ける必要があり、50匹のスポーンなら瓶が約25本とその水換えが要る。ドワーフグラミーにはこれが不要で、設備コストという一点ではベタより圧倒的に有利。出典は FishLab・AquariumSource(確度:中)。

【情報源が食い違う項目】 ・寿命: 2〜4年(Seriously Fish)/4〜6年(Wikipedia)。倍以上の開きがあり未解消。両方を含む2〜6年とした。 ・産卵数: 最大700個(SF)/300〜800個・1抱擁あたり約60個(Wikipedia)/1抱擁50〜200個・計400〜600個(diszhal)。ここでは300〜800とした。 ・孵化: 通常36時間以内(SF)/12〜24時間(Wikipedia)。 ・性成熟: 4〜12か月(約4cm時)。実務上は6か月以上、理想は8〜12か月とされ幅が広い。

【裏付けが取れなかった項目】出荷サイズまでの日数を示す情報源が見つからなかったため未記載。泳ぎ出しまでの日数は Wikipedia の「孵化後3日」のみで Seriously Fish に記載がなく確度が低い。繁殖の間隔、硬度、稚魚の生存率も裏付けなし。個人繁殖の採算実例は該当する記述を発見できなかった(ベタには実例があるが、ドワーフグラミーにはない)。

【主な情報源】charm(販売ページ)、Seriously Fish、Wikipedia(英語)、diszhal.info、aquariumbreeder、FishLab、AquariumSource、Aquarium Coop。

繁殖の育て方ガイド

親の入手から稚魚(針子)の育成まで、種をまたいで共通するコツがあります。繁殖に挑むならあわせてどうぞ。