泡巣 アナバス 親が稚魚を食べる

ハニーグラミーの繁殖

Trichogaster chuna / Honey Gourami

かんたんに言うと

産卵は易しくオスを瓶に分ける必要もありません。ただし売り先が月30匹ほどしかありません。

黄変品種(ゴールデン)。日本で「ゴールデンハニードワーフグラミー」として売られているのはこの姿で、原種はほとんど流通していない。

撮影: Vincent Lim Show Chen / CC BY-SA 2.0

繁殖のしやすさ

ふつう

1回の産仔数

200〜400

初産は少なく、成熟したメスほど多く産む

性成熟まで

240〜270

約8〜9か月で繁殖できる大きさに

産卵から出荷サイズまで

61〜77

約2〜3か月

実売単価(1匹)

345〜460

通販・店頭の実売。あなたが売るときの競合値でもある

日本で「ハニーグラミー」を買おうとすると、まず原種には出会えません。チャームで検索して出てくる21件は、その全部がゴールデンかレッドで、原種は1件もありません(2026年7月17日時点)。ヤフオクの落札実績も同じで、原種は1件も出ていません。この魚を買うということは、事実上「ゴールデンハニードワーフグラミー」(GHD)という黄変品種を買うということです。

繁殖という点だけを見ると、この魚はアナバスの中でいちばん条件が良く見えます。ベタのようにオスを1匹ずつ瓶へ分ける必要がありません。ドワーフグラミーのように DGIV というウイルスの保有率が高いという報告も、本種については見つかりません。泡巣を作らせること自体も難しくない。同じ泡巣のアナバス4種の中でも、繁殖の障害がいちばん少ないのがこの魚です(パールグラミーは温和で殖やしやすいものの最大12cmと大きく、水槽と時間の負担が別格に重い)。

それでも、売って稼ぐことはできません。理由は魚の側ではなく、市場の側にあります。

ヤフオクの落札を180日ぶん数えると、全国で44件・195匹しか動いていません。月に直すと32匹です。いっぽう査読論文の実測では、1回の産卵で200〜400粒を産み、そのうち30〜35パーセントが育ちます。1腹で60〜140匹です。つまりあなたが1回繁殖させるだけで、日本のヤフオク市場の2〜4か月分が埋まります

しかもその44件は、全部が開始価格のまま入札1件で終わっています。競り上がった例が1件もありません。買い手が奪い合っていないということです。値を上げれば売れ残るだけで、実際、個人の落札単価は250〜310円とチャームの345円より安い。チャームが345円で10匹の在庫を常時持っている以上、個人が価格で勝てる余地はほとんどありません。

繁殖の障害を全部取り除いても、売る相手がいなければ商売にはならない。この魚が示しているのはそれです。

繁殖サイクル

親を用意してから、稚魚が出荷サイズに育つまでの流れ。帯の長さが、その段階にかかる日数の目安です。

  1. 1
    養成 8〜9か月かけて親を育てる 240〜270日

    親魚を繁殖できる状態に持っていく

  2. 2
    雌雄判別 雌雄を見分ける。メスのほうが大きい

    オスメスを見分けて選別する

  3. 3
    ペアリング 水温28℃前後で、仕切り越しに引き合わせる 2〜3日

    オスとメスを合わせる

  4. 4
    産卵・交尾 オスが泡巣を作る。2〜3日、その間は餌を食べない 2〜3日

    繁殖行動が起きる

  5. 5
    卵の管理 産卵が終わったらメスを出す。理由はメスが卵を食べるから 1〜2日

    孵化までの管理

  6. 6
    泳ぎ出し 孵化から3〜4日で泳ぎ出す。ここでオスを出す 3〜4日

    稚魚が泳ぎ始め、餌を食べ出す

  7. 7
    稚魚育成 7〜15日目を越えられるか。ここで7割が死ぬ 60〜75日

    出荷サイズまで育てる

  8. 8
    出荷 育った。しかし売り先が無い 60〜75日

    販売できるサイズに到達

繁殖の手順

1

8〜9か月かけて親を育てる

240〜270日

この魚は成熟までに8〜9か月かかります。Mitra らは稚魚を水草(ハイグロ)入りの水槽で8〜9か月育て、第二次性徴が出るまで待ってから繁殖に使いました。ここが最初の壁です。買ってきた個体がすでに成熟しているならその手間は省けますが、日本で売られているのは約2cmの若魚が中心なので、繁殖に使えるまで半年以上かかると考えてください。

コツ 未成熟の個体では雌雄の差がはっきり出ません。急いでペアを組もうとしても判別できないので、待つ以外にありません。

2

雌雄を見分ける。メスのほうが大きい

成熟したオスは全長30〜35mmで、濃い横帯と明るいオレンジ黄色の婚姻色が出ます。メスは全長40〜47mmとオスより大きく、腹が膨らみ、体色は淡いオレンジです。ドワーフグラミーはオスのほうが大きいので、この魚は逆だと覚えてください。いずれも Mitra らが実際に測った値です。なお同論文は「未成熟の個体では雌雄差が顕著でない」とも書いています。つまり若い個体をいくら並べて見比べても判別はできません。8〜9か月待って婚姻色が出るのを確認するのが、結局いちばん確実です。日本で流通するのは約2cmの若魚が中心なので、買った時点で雌雄を選ぶことは基本的にできないと考えてください。複数匹をまとめて買い、育ってから組むことになります。

原種のオス。婚姻色が出るとオレンジ黄色に染まり、背ビレの縁が明るくなる。Mitra らが雌雄判別に使ったのもこの婚姻色で、成熟したオスは全長30〜35mm。メスはこれより大きく40〜47mmで、体色は淡い。
原種のオス。婚姻色が出るとオレンジ黄色に染まり、背ビレの縁が明るくなる。Mitra らが雌雄判別に使ったのもこの婚姻色で、成熟したオスは全長30〜35mm。メスはこれより大きく40〜47mmで、体色は淡い。

撮影: Marcus Cyron / CC BY-SA 3.0

注意 「オスのほうが大きい」という他のグラミーの常識を持ち込むと、雌雄を取り違えます。

3

水温28℃前後で、仕切り越しに引き合わせる

2〜3日 28℃

Mitra らは繁殖水槽を透明な穴あき板で2部屋に仕切り、オスとメスを別々に入れました。オスの側には浮葉の水草(原論文では Commelina 属)を入れます。産卵が起きた5回の水温は 27.9・28.5・28.9・28.7・27.8℃ で、約28℃に収まっています。pH 6.1〜7.2、硬度150〜157mg/l、溶存酸素7.7〜8.5mg/l でした。

コツ 「水温を上げると産卵する」「水位を下げると産卵する」はどちらも裏が取れていません。論文は約28℃を維持しただけで、上げたとは書いていません。水位に至っては論文に記載すらなく、趣味サイトの数字は10〜15cm/12cm/15〜20cmと割れています。約28℃を保つ、とだけ考えてください。

4

オスが泡巣を作る。2〜3日、その間は餌を食べない

2〜3日 28℃

オスは浮葉の下に泡巣を作りはじめます。この作業に2〜3日かかり、その間オスは餌を食べません。ドワーフグラミーとの違いがここにあります。ドワーフグラミーは水草の切れ端を泡に編み込みますが、ハニーグラミーは巣に植物片を編み込みません。浮葉は巣を留める足場であって、材料ではないわけです。巣ができたら仕切りを外します。オスは体の側面を使った求愛行動を約24時間続け、メスが応じると巣の下でペアになります。産卵は早朝に起き、オスが口で泡を作りながら卵を包んで巣へ浮かべます。1回で200〜400粒です。

5

産卵が終わったらメスを出す。理由はメスが卵を食べるから

1〜2日 28℃

産卵が終わったら、すぐメスを取り出してください。理由は「オスがメスを追い回すから」ではありません。メスが卵と稚魚を食べてしまうからです。Mitra らの原文は "the female was removed from the aquaria to avoid predation on eggs and larvae" で、隔離の理由をメスの捕食だと明記しています。日本語の解説はオスの攻撃性を理由に挙げがちですが、査読論文に書かれている理由はこちらです。オスは残します。オスは縄張りを守り、卵と稚魚の世話をします。孵化は産卵から28〜30時間です。孵化率は95〜100パーセントと、ほぼ全部孵ります。

注意 メスを残すと卵と稚魚が食べられます。

6

孵化から3〜4日で泳ぎ出す。ここでオスを出す

3〜4日 28℃

孵化した稚魚はしばらく泡巣に留まるか、巣に付いたままぶら下がっています。孵化後3〜4日で自力で泳ぎ出します。ここでオスを取り出してください。それまでのオスは縄張りを守り、卵と稚魚の世話をします(論文の表現は「territoriality and parental care by guarding the eggs and hatchlings」)。最初の3日間、稚魚は卵黄嚢から栄養を取るので給餌は要りません。Mitra らも1〜3日目は無給餌で、4日目からグリーンウォーターを与えはじめています。逆に言えば、泳ぎ出した瞬間から初期飼料が要るということです。ここで準備ができていないと次の段階で一気に落とします。なお泳ぎ出しについては、Seriously Fish が「孵化後24〜48時間」とし本種の査読論文(3〜4日)と食い違っています。当サイトは本種を実測した論文のほうを採りました。

7

7〜15日目を越えられるか。ここで7割が死ぬ

60〜75日 27℃

この魚の繁殖はここが全てです。孵化率は95〜100パーセントなのに、最終的な稚魚の生存率は30〜35パーセント。損失は産卵でも孵化でもなく、孵化後7〜15日に集中します。Mitra らの給餌は、4〜10日目がグリーンウォーター(主にクロレラ)、11〜20日目がインフゾリアと茹でた卵黄、21日目以降がケンミジンコ・ミジンコ・カイミジンコなどの動物プランクトンでした。この査読プロトコルにはブラインシュリンプが登場しません。趣味の世界では1週間ほどでブラインへ切り替えるとされますが、2週間必要(1週間では口が小さすぎた)という実践記録もあります。密度は2〜3匹/L以下に抑えてください。4〜5匹/Lより成長・生存・免疫指標が有意に良いことが実験で確認されています。150匹なら50L、つまり60cm水槽が丸ごと1本要る計算です。

コツ ベタと違い、育ってきたオスを1匹ずつ瓶へ分ける必要はありません。ここがこの魚の最大の利点です。

注意 初期飼料の準備なしに始めると、7〜15日目に消えていきます。グリーンウォーターもインフゾリアも培養に時間がかかるので、産卵させる前から仕込んでおいてください。

8

育った。しかし売り先が無い

60〜75日

2か月ほどで2cm前後になり、売れるサイズになります。ここで現実に突き当たります。ヤフオクの落札を180日ぶん数えると、全国で44件・195匹しか動いていません。月に32匹です。1腹で60〜140匹取れるので、あなたが1回繁殖させただけで市場の2〜4か月分が埋まります。しかも44件は全部が開始価格のまま入札1件で、競り上がりが1件もありません。落札単価は250〜310円で、チャームの345円より安い。手数料10パーセントを引くと手取りは約225円です。そこから発泡スチロールとカイロと梱包の資材費が出ていきます。

注意 育てる前に、売り先を確かめてください。この魚は「育てられるか」ではなく「売れるか」で詰みます。

相場と採算

2026年7月17日時点の調査。相場は品種・グレード・時期で変動します。

実売相場(1匹)

345〜460

通販・店頭の実売価格。あなたが買う値段でもあり、売るときの競合でもある=ここに利ざやは出ない

この魚は売って儲かるのか

魚は個人でも許可なく売れます。ただし、売って利益を出すのは簡単ではありません。多くの種は安価な量産個体と競合し、販路・送料・死着といった壁もあります。当サイトはその現実を、腕前ではなく市場の構造の問題として、種ごとに数字で確かめています。くわしくは 繁殖は儲かるのか、自分の条件での試算は採算シミュレーターをどうぞ。

基本データ

ハニーグラミーの基本データ
繁殖形態泡巣 — オスが水面に泡の巣を作り、卵と稚魚を守る。産卵数が多い一方、ペアの相性と隔離のタイミングが難しい。
別名ゴールデンハニードワーフグラミー、ゴールデンハニーレッドドワーフグラミー、GHD、ハニードワーフグラミー
飼育のしやすさ 簡単
成魚サイズ30〜55mm
寿命2〜8年
適水温22〜28℃
繁殖適水温27.8〜28.9℃
pH6〜8
硬度(GH)2〜15
性成熟まで240〜270日
産卵から孵化まで 1〜2日
稚魚の初期飼料グリーンウォーター(4〜10日)→インフゾリアと茹で卵黄(11〜20日)→ケンミジンコ等の動物プランクトン(21日〜)
親の隔離 必要(親が稚魚・卵を食べる)
雌雄の見分け方成熟したオスは全長30〜35mmで、濃い横帯と明るいオレンジ黄色の婚姻色が出る。メスは全長40〜47mmとオスより大きく、腹が膨らみ、体色は淡い(Mitra et al. 2006 の実測)。ドワーフグラミーはオスのほうが大きいので逆になる。ただし未成熟の個体では雌雄差がはっきりしない(同論文)。なお日本で流通するのはほぼ黄変品種(ゴールデン)で、同論文が観察した原種と見え方が異なる可能性がある(未確認)。
原産地インド、バングラデシュ、ネパール
生息環境ガンジス川・ブラマプトラ川水系。水温22〜28℃の池・水路・水田・湿地など、流れの緩い浅い水域。
入手先 量販店、専門店、通販、オークション

混泳相性

相手 相性 理由
ネオンテトラ 良い 同サイズで温和。生活層が分かれる。
コリドラス 良い 底棲で温和。棲み分けが成立する。
ラスボラ・ヘテロモルファ 良い 同サイズで温和。好む水質も近い。
ドワーフグラミー 注意 同属で縄張りが競合する。加えてドワーフグラミーは DGIV の保有率が高く、同居させると本種が曝露する。
ベタ 避ける 同じアナバスで縄張りが競合する。ベタは他魚のヒレを攻撃する。
スマトラなどのバーブ類 避ける ヒレをかじる習性があり、長い腹ビレが標的になる。
大型シクリッド・アロワナ 避ける 捕食される。

よくある失敗

繁殖そのものより、ここでつまずく人のほうが多いです。

稚魚が7〜15日目に消えていく よく起きる

症状
孵化はほぼ全部成功したのに、2週目に入るころから底に沈んで減っていく。
原因
この魚の損失は産卵でも孵化でもなく初期飼育に集中している。査読論文の実測で孵化率95〜100%に対し稚魚の生存率は30〜35%。Mitra らは死亡が孵化後7〜15日に集中すると報告している。稚魚が小さく、適切な初期飼料が無いと餓死する。
対策
グリーンウォーター(4〜10日)→インフゾリアと茹で卵黄(11〜20日)→ケンミジンコ等(21日〜)。培養に時間がかかるので産卵前から仕込む。密度は2〜3匹/L以下に抑える。

メスが卵と稚魚を食べる よく起きる

症状
産卵したのに卵が減っていく。
原因
メスを残している。Mitra らがメスを隔離した理由はまさにこれで、原文は「to avoid predation on eggs and larvae」。日本語の解説は「オスがメスを攻撃するから」を理由に挙げがちだが、査読論文が書いている理由はメスの捕食。
対策
産卵が終わったら即座にメスを取り出す。オスは残す。オスは卵と稚魚を世話する。

産卵しない

症状
ペアはいるのに泡巣を作らない。
原因
未成熟の可能性が高い。この魚は成熟に8〜9か月かかる。あるいは水温が約28℃から外れている。
対策
約28℃を保つ(産卵が起きた5回の実測は27.8〜28.9℃)。8〜9か月育った個体を使う。なお「水位を下げる」「水温を上げる」で産卵を誘発できるという主張は、査読論文でも専門サイトでも裏付けが取れていない。

雌雄を取り違える

症状
ペアのつもりが産卵しない。
原因
この魚はメスのほうが大きい(メス40〜47mm、オス30〜35mm)。ドワーフグラミーなど他のグラミーはオスのほうが大きいので、その常識で選ぶと逆になる。加えて未成熟個体では雌雄差がはっきりしない。
対策
オスの婚姻色(濃い横帯と明るいオレンジ黄色)で見る。サイズだけで判断しない。成熟するまで待つ。

育てたのに売れない よく起きる

症状
出荷サイズまで育てたが買い手がつかない。値を下げても残る。
原因
市場そのものが小さい。ヤフオクの落札は180日で全国44件・195匹(月32匹)しかなく、しかも68%が単一の出品者。44件すべてが開始価格=落札価格・入札1件で、競り上がりが1件も無い=買い手が奪い合っていない。チャームが345円で10匹の在庫を常時持っているため、個人は250〜310円とそれより安くしか売れていない。
対策
繁殖させる前に売り先を確かめる。この魚は繁殖の障害がアナバスの中でいちばん少ないが、それでも商売にはならない。趣味として殖やすと割り切るのがいちばん健全。

知っておきたいこと

学名にひとつ厄介な問題があります。ハミルトンは1822年の同じ本の中で、この魚を2回、別の名前で記載しました。120ページに sota、121ページに chuna です。ページの順で言えば sota のほうが先です。

それなのに、現在有効なのは chuna のほうです。同じ本で同時に発表された名前はページの前後では優先順位が決まらず、「先行改訂者」——最初にどちらかを選んだ研究者——に委ねられるからです。そしてその先行改訂者が誰なのかについて、Derijst(1997)と Paepke(1997)の見解が割れています。Eschmeyer's Catalog of Fishes は現在もこの不一致を明記したうえで、chuna を有効・sota をシノニムとしています。

これは余談ではありません。この魚の繁殖を実測した唯一の査読論文(Mitra et al. 2006)は、Colisa sota という名前で出版されています。現在の学名で検索しても出てこないのは、このためです。

なお属の入れ替えも起きています。かつて Colisa と呼ばれたグループが Trichogaster へ、かつて Trichogaster と呼ばれたグループ(スリースポットグラミー等)が Trichopodus へ移りました。根拠は Töpfer & Schindler(2009)で、Trichopodus のタイプ種の指定を整理した結果、属名が総入れ替えになったものです。古い資料に Colisa chuna とあるのはこの前の表記です。

よくある質問

ベタ・ドワーフグラミーと、どれがいちばん繁殖しやすいですか?
手間と設備という点ではハニーグラミーです。ベタはオスが死ぬまで戦うので育ってきたら1匹ずつ瓶に分けなければならず、50匹のスポーンなら瓶が約25本とその全部の水換えが要ります。ドワーフグラミーは瓶こそ要りませんが、DGIV というウイルスの保有率が高く(シンガポール産の22%)、親の健康そのものが読めません。ハニーグラミーは瓶が要らず、DGIV の報告も本種では確認できません。同じ泡巣のアナバス4種の中でも、繁殖の障害がいちばん少ないのがこの魚です(パールグラミーは温和で殖やしやすいものの最大12cmと大きく、水槽と時間の負担が別格に重い)。ただし難しさが無いわけではなく、孵化後7〜15日で7割が死にます。そして障害がいちばん少ないのに、いちばん売れません。
ゴールデンハニードワーフグラミーとハニーグラミーは同じ魚ですか?
「ゴールデンハニードワーフグラミー」は本種(Trichogaster chuna)の黄変品種です。ドワーフグラミー(Trichogaster lalius)とは別種なので、名前に「ドワーフグラミー」と入っていても別の魚だと考えてください。日本ではこの黄変品種がほぼ全てで、チャームの検索結果21件は全部がゴールデンかレッド、原種は0件です。ただし「レッド」系は素性が決着していません。査読論文(Swain et al. 2021)は「業界が red flame gourami(ドワーフグラミーの改良品種)をハニーグラミーと誤称している」と名指ししていますし、Seriously Fish は厚唇グラミーとの交雑の可能性を指摘しています。商品ページに学名の記載が無いため、店頭の「ゴールデンハニーレッド」が純粋な本種かどうかは公開情報からは確認できません。
DGIV(イリドウイルス)は大丈夫ですか?
本種が DGIV を保有・発症したという公表報告は確認できませんでした。観賞魚のメガロサイティウイルスに関する総説(Che Johan & Zainathan 2020)の全文を検索したところ、chuna も sota も honey も1件も出てきません。一方で同じ総説の宿主リストには、近縁のドワーフグラミー(lalius)と厚唇グラミー(labiosa)がどちらも載っています。つまり同属の近い2種は確定した宿主なのに、本種だけリストに無いという状態です。ただし輸入グラミー全体では18.7%が陽性という報告(Rimmer et al. 2015)もあり、報告が無いことは感染しないことの証明ではありません。当サイトはこれ以上のことは書きません。
水位を下げないと産卵しないのですか?
その主張には裏付けがありません。本種の繁殖を実測した唯一の査読論文(Mitra et al. 2006)は、繁殖水槽の寸法(18×10×10インチ)は書いていますが水深にはひとことも触れていません。趣味サイトの数字は10〜15cm、12cm、15〜20cmと割れており、同じサイトが自分の別ページと矛盾している例すらあります。同じことが水温にも言えます。産卵が起きたときの水温が約28℃だったのは実測値として堅いのですが、「水温を上げること」が引き金だと示した資料はありません。論文は約28℃を維持しただけです。当サイトは「約28℃を保つ」までしか書きません。
メスを隔離するのはオスが攻撃するからですか?
違います。メスが卵と稚魚を食べるからです。Mitra らの原文は「When the breeding process was over, the female was removed from the aquaria to avoid predation on eggs and larvae」で、隔離の理由をメスの捕食だと明記しています。日本語の解説の多くはオスの攻撃性を理由に挙げますが、査読論文に書かれている理由はこちらです。両方が同時に起きている可能性はありますが、文献にあるのはメスの捕食のほうだけです。なおオスは残してください。オスは縄張りを守り、卵と稚魚の世話をします。
結局、繁殖させて売れば儲かりますか?
儲かりません。そしてこの魚の場合、理由は魚ではなく市場にあります。ヤフオクの落札を180日ぶん数えると全国で44件・195匹、月に32匹しか動いていません。1回の産卵で200〜400粒、生存率30〜35%なので1腹60〜140匹。1回繁殖させただけで市場の2〜4か月分が埋まります。しかも44件すべてが開始価格のまま入札1件で、競り上がった例が1件もない。買い手が奪い合っていないということです。落札単価250〜310円はチャームの345円より安く、手数料10%を引くと手取り約225円。そこから梱包資材が出ます。査読論文自身が「低い稚魚生存率が商業生産を制約している」と結論しています。趣味として殖やす魚です。
数値の根拠と情報源

【繁殖データの正本】Mitra K, Suresh VR, Dey UK, Vinci GK, Biswas DK (2006)「Captive breeding and embryonic development of Honey Gourami, Colisa sota (Ham.-Buch.)」Bangladesh J. Fish. Res. 10(1):93-99(インド中央内水面漁業研究所 CIFRI)。オープンアクセス。本プロジェクトで PDF を取得し、Table 1 と本文を直接読んで確認した(確度:高)。日本語圏の解説サイトはこの論文をまず引いていない。

Table 1(5セットの実測値): 水温 27.9/28.5/28.9/28.7/27.8℃、DO 8.5/8.5/7.7/7.9/7.7 mg/l、pH 7.2/7.1/6.1/7.1/6.9、硬度 150/157/150/152/155 mg/l、産卵数 380/200/400/300/240 粒孵化率 100/95/99/100/100%稚魚生存率 30/35/32/31/30%。卵径0.5〜0.68mm。 本文からの確認事項: 「It laid about 200-400 eggs in bubble nest built by the male」「Hatching started within 28-30 hrs after egg laying」「The hatchlings became free swimming by 3rd to 4th day of hatching」「The larval survival was 30-35%」。「When the breeding process was over, the female was removed from the aquaria to avoid predation on eggs and larvae」=メスを隔離する理由は「メスが卵と稚魚を食べるから」であり、オスの攻撃性ではない。成熟まで8〜9か月。成熟オス30〜35mm・メス40〜47mm(全長)でメスのほうが大きい、未成熟では雌雄差不明瞭。営巣は Commelina 属の浮葉の下。給餌は 1〜3日=無給餌(卵黄嚢)、4〜10日=グリーンウォーター(主に Chlorella)、11〜20日=インフゾリアと茹で卵黄、21日〜=ケンミジンコ・ミジンコ・カイミジンコ等。

【もうひとつの査読論文】Swain SK et al. (2021) Aquaculture 542:736874(ICAR-CIFA)。卵巣内絶対抱卵数 1,516±386 粒(メス25個体)だが、これは卵巣が持っている卵の数であって1回に産む数ではない。産卵数(200〜400)と混同すると採算が約5倍狂う。同論文は稚魚の適正密度を2〜3匹/L(4〜5匹/Lより成長・生存・免疫指標が有意に良好、P<0.05、45日)とし、営巣基質はバミューダグラス(Cynodon dactylon)が最良とする。「the lower larval survival limits its commercial production in captivity」と明言している(本文は有料のため抄録・スニペットで確認。密度別の生存率%は未取得)。

【価格】2026-07-17 にチャーム公式の検索結果ページで実見(売切は除外)。ゴールデンハニードワーフグラミー3匹1,380円=460円/匹、5匹1,960円=392円/匹。ゴールデンハニーレッドドワーフグラミー3匹1,380円=460円/匹、5匹1,960円=392円/匹、10匹3,450円=345円/匹「ハニーグラミー」の検索結果21件は全部がゴールデンかレッドで、原種の取扱いは0件。楽天では ネオス ゴールデンハニーグラミー3匹1,180円=393円/匹(送料840円)等。送料730〜1,500円が本体価格に匹敵する点に注意(3匹1,380円+送料730円=実質703円/匹)。

【ヤフオク実売(180日・2026-07-17確認)】「ゴールデンハニードワーフグラミー」落札44件・195匹、平均283円/匹、最頻は4匹1,000円=250円/匹。44件すべてが開始価格=落札価格・入札1件で、競り上がりが1件も無い(=価格発見が起きていない)。68%(30件)が単一出品者(埼玉)で、残りも反復出品の業者・セミプロ。一般の家庭ブリーダーが自家繁殖個体を売って成立している形跡は見つからなかった。「ハニーグラミー」での落札18件も全部がゴールデン/レッドで、原種は0件。

【DGIV】本種(T. chuna)がメガロサイティウイルス/ISKNV を保有・発症したという公表報告は確認できなかった。オープンアクセスの総説 Che Johan & Zainathan (2020)「Megalocytiviruses in ornamental fish: A review」Veterinary World 13(11):2565-2577 の全文を機械検索した結果、chuna=0件・sota=0件・honey=0件に対し lalia=14件・lalius=1件・labiosa=2件で、同属の近縁2種(ドワーフグラミー・厚唇グラミー)は確定宿主だが本種は宿主リストに無い。ただし Rimmer et al. (2015) は輸入グラミーの18.7%が陽性としており(14種中10種で検出、内訳は本文が有料で未確認)、報告が無いことは感染しないことの証明ではない。この一線を越えて書かないこと。

【レッド系の素性は決着していない】Swain et al. 2021 は査読論文の中で「業界が red flame gourami(ドワーフグラミーの改良品種)をハニーグラミーと誤称している」と名指ししている。Seriously Fish は 'red' 型について T. labiosa との交雑の可能性を指摘し、TFH は一部の色彩品種が C. lalia(ドワーフグラミー)との雑種だとする。チャームの最量販品は「ゴールデンハニーレッド」であり、これが純粋な T. chuna である保証は公開情報からは取れない(商品ページに学名の掲載が無い)。断定はしないが、素性が不透明であることは書く。

【学名】Eschmeyer's Catalog of Fishes で確認(確度:高)。現況は Valid as Trichogaster chuna (Hamilton 1822)、sota は Synonym of Trichogaster chuna。原記載は同一著作の Hamilton 1822 で sota が p.120、chuna が p.121シノニムのほうがページは先。CoF は「Derijst 1997:107 と Paepke 1997:185 が先行改訂者について見解を異にしている(both sota and chuna are regarded as the same species)」と明記したまま chuna を有効としている。タイプ産地はブラマプトラ川 Goalpara(Assam, India)、タイプ標本は現存しない。IUCN(2010) は Least Concern。属の入れ替えは Töpfer & Schindler (2009) による。

【裏付けが取れなかった項目】 ・「水位を下げると産卵する」は学術的裏付けが無い。Mitra 2006 は繁殖水槽の寸法(18×10×10インチ)を書くが水深に触れておらず、"depth"/"water level" の語が本文に無い。趣味サイトは10〜15cm/12cm/15〜20cm と割れ、AquaInfo は自サイト内で矛盾している。 ・「水温を上げると産卵する」も検証されていない。論文は約28℃を維持しただけ。約28℃という水温そのものは実測値として堅いが、「上げる」ことが引き金だとは誰も示していない。 ・ラビリンス器官の形成に必要な日数は本種では存在しない。Seriously Fish は「初期段階を通じて隙間の無い蓋が要る」とするだけで日数を書かない。そもそも湿った空気層がラビリンス器官の発達に影響するという実験的証拠は、どのアナバスでも見つからなかった。近縁種では体長7〜8mm前後で分化する(Morioka et al. 2009/2010/2012)。 ・オスの攻撃性に関する本種固有の研究は存在しない。「オスを分けなくてよい」は、Seriously Fish が本種のページにだけオス同士の警告を書いていない(4〜6匹での飼育を勧めている)ことと、Aquarium Co-op(ショップ)が「ベタと違い幼魚を瓶に分ける必要は無い」と明言していることに拠る。後者は自社の労力に不利な方向の証言なので採った。「1匹あたり何L」「オス1:メス2〜3」のような数値ルールはどの権威にも遡れなかった。 ・出荷サイズまでの日数: 2か月で1.9〜2.5cm(ブラインを1日5回与えた実践記録)と、2か月で1.3cm未満(Klinesteker 1985)で約2倍食い違う。差はほぼ給餌強度と見られる。両論のうち速いほうに寄せて60〜75日としたが、確度は低い。 ・繁殖の間隔、日本の卸値、本種固有の病気、寿命の一次情報は不明。インド市場の小売1〜2USD(Swain 2021)のみ判明。

【主な情報源】Mitra et al. 2006(PDF全文)、Swain et al. 2021(抄録)、Che Johan & Zainathan 2020(PDF全文)、Rimmer et al. 2015(抄録)、Eschmeyer's Catalog of Fishes、FishBase、Seriously Fish、TFH Magazine、AquaInfo、Aquarium Co-op、チャーム、ヤフオク落札相場、楽天市場。

繁殖の育て方ガイド

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