バラマキ産卵 コイ科 親が稚魚を食べる

チェリーバルブの繁殖

Puntius titteya / Cherry barb

かんたんに言うと

家庭で殖やせる数少ないバルブ。丈夫でバラマキ産卵し稚魚も育てやすいのに、単価が安く出口が無く採算は合いません。

繁殖期のオス。全身が深紅(チェリーレッド)に染まる。これが名前の由来。

撮影: Brian Gratwicke / CC BY 2.0

繁殖のしやすさ

簡単

1回の産仔数

150〜300

初産は少なく、成熟したメスほど多く産む

産卵から出荷サイズまで

71〜122

約2〜4か月

実売単価(1匹)

134〜260

通販・店頭の実売。あなたが売るときの競合値でもある

チェリーバルブは、繁殖の難しいものが多いバルブ(コイ科の小型魚)の中では例外的に、家庭で殖やせる種です。丈夫で水質にうるさくなく、オスとメスを揃えて産卵床を敷いておけば、早朝にバラバラと卵をまきます。カラシンの最難関ネオンテトラが「暗所・超軟水・専用条件」を要求するのとは対照的で、繁殖のハードルはずっと低いと言えます。

名前の通り、繁殖期のオスは体全体が深い赤(チェリーレッド)に染まります。メスは淡い褐色に銀色で、体も一回り大きい。オスとメスの見分けは体色だけで一目瞭然という、卵生魚としては珍しく雌雄判別のやさしい魚です。

原産はスリランカの南西部にある雨林の渓流で、この種はスリランカの固有種です。発色の良い個体が観賞用に乱獲されたことなどから、野生個体群は IUCN で危急種(VU)に評価されています。1996年の法律で野生個体の輸出が制限されており、現在店頭に並ぶチェリーバルブはほぼすべて養殖個体です。

ただし、殖やせても商売にはなりません。charm ではまとめ買いで1匹134〜144円、4匹でも1匹260円と、単価は最安クラス。ヤフオクの個人取引も直近30日で数件、数百円の小口が中心で、メルカリは生体禁止のため販路がほとんどありません。「殖やせないから儲からない」のではなく、殖やせても単価が安く、出口が無いから儲からない——チェリーバルブはその典型です。詳しくは下の採算の項をご覧ください。

繁殖サイクル

親を用意してから、稚魚が出荷サイズに育つまでの流れ。帯の長さが、その段階にかかる日数の目安です。

  1. 1
    養成 親魚を選んで栄養強化する 7〜14日

    親魚を繁殖できる状態に持っていく

  2. 2
    ペアリング 産卵床を用意する 1〜3日

    オスとメスを合わせる

  3. 3
    産卵・交尾 早朝のバラマキ産卵 1日

    繁殖行動が起きる

  4. 4
    卵の管理 産卵後すぐに親を抜く 1〜2日

    孵化までの管理

  5. 5
    孵化 孵化を待つ 1〜2日

    卵から出てくる

  6. 6
    泳ぎ出し 泳ぎ出しと最初の餌 2〜4日

    稚魚が泳ぎ始め、餌を食べ出す

  7. 7
    稚魚育成 稚魚を育てる 30〜60日

    出荷サイズまで育てる

  8. 8
    出荷 出荷サイズまで育てる 70〜120日

    販売できるサイズに到達

繁殖の手順

1

親魚を選んで栄養強化する

7〜14日 25℃

発色の良いオスと、腹がふっくらしたメスを選びます。オスの追尾が激しいので、メスを多め(オス1匹にメス2匹程度)にすると消耗を防げます。産卵前の1〜2週間、ブラインシュリンプや冷凍アカムシなどの生餌を中心にしっかり与えて栄養を蓄えさせると、オスの赤が深まり、メスがよく卵を持ちます。水温は22〜27℃を保ちます。

上が淡い褐色のメス、下が赤いオス。体色だけで雌雄を判別できる。発色の良いオスと腹の張ったメスを選ぶ。
上が淡い褐色のメス、下が赤いオス。体色だけで雌雄を判別できる。発色の良いオスと腹の張ったメスを選ぶ。

撮影: Akino yuugure / CC BY-SA 3.0

コツ チェリーバルブは群れで飼うと落ち着いて発色します。5匹以上で飼っておくと、その中から状態の良いペアを選べます。

2

産卵床を用意する

1〜3日 26℃

ウィローモスなどの細かい水草を厚く敷いた産卵水槽を用意します。バラマキ産卵なので専用の産卵床は要りませんが、まかれた卵が水草の隙間に落ちて親から隠れることが、卵を守るうえで決定的に重要です。水草の代わりに、底にネットやビー玉を敷いて卵を落とす方法もあります。水温は範囲の上限寄り(25〜27℃)にすると産卵しやすくなります。

3

早朝のバラマキ産卵

1日 26℃

状態が整うと、多くは早朝にオスがメスを追い、水草の間に卵をまき散らします。1回の産卵数は150〜300粒(情報源で幅があります)。卵は粘着性があって水草や底に散らばります。産卵は短時間で終わることが多いので、朝に卵が見えたら産卵が済んだと判断してください。

コツ オスの追尾がしつこくてメスが弱るようなら、産卵を確認し次第オスを先に戻します。

4

産卵後すぐに親を抜く

1〜2日 26℃

チェリーバルブの親は、隙あらば自分の産んだ卵を食べます。バラマキ産卵の魚に共通する最大の注意点です。産卵を確認したら、できるだけ早く親を元の水槽へ戻してください。卵だけを残すか、逆に親を残して卵側を移すかは状況次第ですが、いずれにせよ親と卵を引き離すことが要点です。水草が卵を物理的に隠してくれるので、隠れ家が多いほど食べられる数は減ります。

注意 親を抜き忘れると、翌日にはほとんどの卵が食べられて残りません。

5

孵化を待つ

1〜2日 26℃

水温にもよりますが、産卵から24〜48時間ほどで孵化します。孵化直後の稚魚はごく小さく、しばらくは水草や底に貼りついたまま、腹のヨークサック(栄養の袋)を消費して過ごします。この間は餌を与える必要はありません。無精卵は白く濁ってカビが生えるので、目立つものはスポイトで取り除くと、カビが健全な卵に広がるのを防げます。

6

泳ぎ出しと最初の餌

2〜4日 26℃

孵化からさらに1〜2日でヨークサックを消費し終え、稚魚が泳ぎ始めます。ここが最初の関門です。泳ぎ出した稚魚の口はごく小さく、ブラインシュリンプの幼生すら大きすぎて食べられません。インフゾリア(微生物)やグリーンウォーターといった、より小さな餌を数日間与える必要があります。この初期の餌を用意できないと、口に入る餌が無くて餓死します。

注意 「泳ぎ出したらブラインシュリンプ」では早すぎます。最初の数日は必ず微小な餌を用意してください。

7

稚魚を育てる

30〜60日 25℃

数日インフゾリアで育てて口が大きくなったら、ブラインシュリンプの幼生に切り替えます。1日2〜3回、少量ずつ与えます。稚魚は水質変化に弱いので、水換えは控えめにしてスポイトで底の汚れだけ吸い出します。成長は、孵化からおよそ5週間で体長1cm程度が目安です。

コツ 成魚と一緒にすると餌の競争に負けて痩せるので、ある程度の大きさになるまでは分けて育てます。

8

出荷サイズまで育てる

70〜120日

体長1.5〜2cmほどになり、オスに赤みが差してくればショップに並ぶサイズです。ただし、売ることを考えているなら先に採算の項を読んでください。チェリーバルブの普通種はまとめ買いで1匹134〜144円と最安クラスで、個人が売っても送料のほうが高くつきます。アルビノやロングフィンなどの改良品種は数倍の値がつきますが、それは繁殖の容易さではなく選別・固定の労力への値段です。

注意 殖えすぎた個体を川や池に放流することは絶対にしないでください。

相場と採算

2026年7月18日時点の調査。相場は品種・グレード・時期で変動します。

実売相場(1匹)

134〜1,040

通販・店頭の実売価格。あなたが買う値段でもあり、売るときの競合でもある=ここに利ざやは出ない

この魚は売って儲かるのか

魚は個人でも許可なく売れます。ただし、売って利益を出すのは簡単ではありません。多くの種は安価な量産個体と競合し、販路・送料・死着といった壁もあります。当サイトはその現実を、腕前ではなく市場の構造の問題として、種ごとに数字で確かめています。くわしくは 繁殖は儲かるのか、自分の条件での試算は採算シミュレーターをどうぞ。

基本データ

チェリーバルブの基本データ
繁殖形態バラマキ産卵 — 水草や底床に卵をばらまく。親が卵を食べるため、産卵後すぐに親を隔離できるかが成否を分ける。
別名Rohanella titteya、Barbus titteya
飼育のしやすさ 簡単
成魚サイズ40〜50mm
寿命3〜6年
適水温22〜27℃
繁殖適水温25〜27℃
pH6〜8
硬度(GH)5〜19
産卵から孵化まで 1〜2日
稚魚の初期飼料インフゾリアやグリーンウォーターなどの微小な餌を数日。その後ブラインシュリンプ幼生へ
親の隔離 必要(親が稚魚・卵を食べる)
雌雄の見分け方オスは小さく細身で、体側の赤が濃い。繁殖期には全身が深紅に染まる。メスは体が大きく、淡い褐色に銀色で赤みが乏しい。卵生魚としては例外的に、体色だけで雌雄を判別できる。
原産地スリランカ
生息環境スリランカ南西部(Kelani〜Nilwala 水系)の雨林の渓流。固有種。野生個体群は乱獲・生息地減少で IUCN 危急種(VU)。流通個体はほぼ養殖。
入手先 量販店、専門店、通販、オークション

混泳相性

相手 相性 理由
ネオンテトラ 良い 同じくらいのサイズで温和。中層で群れ、チェリーバルブと衝突しない。好む水質も近い。
コリドラス 良い 底層で温和。生活層が分かれ、餌の取り合いも起きない。
ラスボラ・ヘテロモルファ 良い 温和な小型の群泳魚で、好む水質(弱酸性〜中性の軟水)も近い。相性が良い。
ミナミヌマエビ 注意 成体のエビは同居できるが、口に入る稚エビは食べられる。エビの繁殖を狙うなら同居させない。
ベタ 注意 チェリーバルブ自体は温和でヒレをかじる性質は弱いが、群れで泳ぎ回るためベタが落ち着けないことがある。ベタの単独飼育が無難。

よくある失敗

繁殖そのものより、ここでつまずく人のほうが多いです。

翌朝には卵がほとんど残っていない よく起きる

症状
まかれたはずの卵が、翌日にはほとんど消えている。
原因
バラマキ産卵の親は自分の卵を食べる。産卵後に親を抜かなかったのが原因。
対策
産卵を確認したらすぐ親を隔離する。ウィローモスなど水草を厚く敷いて、卵が親から隠れる場所を作る。

泳ぎ出した稚魚が数日で消える よく起きる

症状
孵化して泳ぎ始めた稚魚が、数日のうちにいなくなる。
原因
初期の餌が大きすぎて口に入らず餓死している。泳ぎ出し直後の稚魚はブラインシュリンプの幼生すら食べられない。
対策
泳ぎ出しの前にインフゾリアやグリーンウォーターを用意しておく。最初の数日は微小な餌、その後ブラインシュリンプに切り替える。

卵が白くカビる

症状
産んだ卵の一部が白く濁り、綿のようなカビが生える。
原因
無精卵が死んでカビ、そのカビが周囲の健全な卵にも広がる。
対策
白く濁った卵はスポイトで早めに取り除く。産卵水槽は清潔にし、水温を保つ。

メスがオスに追い回されて弱る

症状
特定のメスが常にオスに追われ、痩せて隠れがちになる。
原因
オスの繁殖行動が過剰。オスに対してメスが少ないと1匹に負担が集中する。
対策
オス1匹に対してメス2匹程度にして追尾を分散させる。隠れ家を増やす。産卵後はオスを先に抜く。

知っておきたいこと

チェリーバルブの学名は長く Puntius titteya(旧 Barbus titteya)とされてきましたが、2023年に Sudasinghe らが遺伝子解析にもとづき、この1種だけからなる新属 Rohanella へ移す提案を発表しました(Rohanella titteya)。属名はスリランカの魚類学者 Rohan Pethiyagoda への献名です。ただし FishBase など主要なデータベースは現時点でも Puntius titteya を有効名として掲載しているため、本サイトでは Puntius titteya を主として扱い、新名を併記しています。

アルビノ、ロングフィン、スーパーレッド(スーパーコメット)といった改良品種もあり、これらは普通種の数倍の値がつきます。ただしそれは「繁殖の容易さ」ではなく「選別と固定という別の労力」で得る価値で、原種チェリーの家庭繁殖が採算に乗らない事実は変わりません。

よくある質問

チェリーバルブの繁殖は儲かりますか?
個人が売って利益を出すのは簡単ではありません。普通種はまとめ買いで1匹134〜144円(2026年7月・charm本店)と最安クラスで、この単価と競合するのは困難です。ヤフオクの個人取引も直近30日で数件・数百円の小口が中心で、メルカリは生体禁止のため販路がほとんどありません。生体の発送は保温や死着保証で送料が高くつくため、200円前後の魚では送料が価値を上回ってしまいます。アルビノやロングフィンなどの改良品種なら数倍の値がつきますが、それは繁殖の容易さではなく選別・固定という別の労力への対価です。
バルブなのに、なぜ家庭で殖やせるのですか?
チェリーバルブは丈夫で水質にうるさくなく、バラマキ産卵する魚の中でも産卵させやすい部類だからです。ネオンテトラのように暗所や超軟水といった特殊な条件を必要とせず、産卵床(ウィローモス等)を敷いて栄養を蓄えさせれば産卵します。ただし「殖やせること」と「売って儲かること」は別問題で、単価が安いため採算には乗りません。
オスが赤くなりません。なぜですか?
いくつか原因が考えられます。まだ若い、そもそもメスである、栄養や発情が不足している、群れが小さくて落ち着いていない、などです。オスの深い赤は繁殖期の婚姻色なので、生餌でしっかり栄養強化し、5匹以上の群れで落ち着いた環境を整えると発色が良くなります。メスはもともと赤みが乏しく淡い褐色です。
稚魚は何を食べますか?
泳ぎ出した直後の稚魚は口がごく小さく、ブラインシュリンプの幼生でも大きすぎて食べられません。最初の数日はインフゾリア(微生物)やグリーンウォーターといった微小な餌が必要です。その後、口が大きくなってきたらブラインシュリンプの幼生に切り替えます。この初期の餌を用意できるかどうかが、稚魚を残せるかの分かれ目です。
群れは何匹から飼うとよいですか?
5匹以上を目安にしてください。群れで飼うと落ち着いてよく発色し、オスの追尾も分散します。繁殖を狙うなら、オス1匹に対してメス2匹程度の比率にすると、特定のメスにオスの負担が集中するのを防げます。
数値の根拠と情報源

【価格】2026-07-18 に charm(チャーム)本店の実売一覧で確認(SOLD OUT除外)。普通種はチェリーバルブ30匹4,030円=1匹134円、12匹1,730円=144円、4匹1,040円=260円。改良品種はスーパーコメット1匹1,040円・3匹2,300円=767円、アルビノピュアレッド1匹900円・3匹2,400円=800円。→普通種はまとめ買いで1匹134〜144円と最安クラス、改良品種のみ800〜1,040円/匹に上がる。ヤフオクは直近30日で生体わずか6件(200〜1,380円の小口中心・取引低調。「バルブ=valve」の非生体が検索に混入するため件数は割り引いて解釈)。メルカリは生体禁止で、実質ヤフオク一択の細い販路。

【学名】長く Puntius titteya(旧 Barbus titteya / Capoeta titteya)とされてきたが、2023年に Sudasinghe, Rüber & Meegaskumbura が単型属 Rohanella を提案(Rohanella titteya、Zoologica Scripta)。FishBase 等の主要データベースは現時点でも Puntius titteya を有効名として掲載しているため、本サイトは Puntius titteya を主に、Rohanella titteya を併記した。ユーザーが混同しやすい Puntigrus はタイガーバルブ類の別属で無関係。

【数値の幅(情報源で食い違う項目)】1回の産卵数は Wikipedia が200〜300粒、FishBase が Fec 150〜250 で、150〜300 と幅を取った。寿命は英語圏が平均約4年・最大約7年、日本の情報が3〜5年で、36〜72か月とした。適水温は Seriously Fish 20〜27℃・FishBase 23〜27℃・日本22〜28℃で、22〜27℃を採用。

【裏付けが取れなかった項目】性成熟までの正確な日数、産卵間隔、家庭での稚魚生存率は定量的な一次情報が見つからず、数値を載せていない。出荷サイズまでの日数も直接の出典が無く、「孵化5週で約1cm」という成長記述から70〜120日と推定した目安であり、出典のある数値ではない。最低水槽サイズも群れ飼い前提で幅があるため数値を載せていない(本文で60cm級推奨・小群なら30cm可と記述)。

【保護状況】スリランカ固有種。発色個体の観賞用乱獲・水力発電・森林伐採などで野生個体群は減少し、IUCN で危急種(VU、2019評価)。1996年法で野生個体の輸出が制限され、流通はほぼ養殖個体。CITES 附属書掲載は明示ソースを確認できていないため本文では触れない。

【主な情報源】FishBase、Seriously Fish、Wikipedia(英語)、Aquarium Glaser、東京アクアガーデン、charm(本店・Yahoo!店の販売ページ)、aucfree(ヤフオク落札)。

繁殖の育て方ガイド

親の入手から稚魚(針子)の育成まで、種をまたいで共通するコツがあります。繁殖に挑むならあわせてどうぞ。