成熟したオス・メスを群れで飼う
まずオスとメスを複数匹(5〜10匹程度)、一緒に飼います。ヤマトヌマエビは雌雄判別がしやすく、メスは大きく寸胴で、体側の斑紋が点と破線の交互、オスは点が並ぶ点線状です。水温は20〜26℃、コケや沈下性の餌を切らさないようにして、じっくり太らせます。この段階は難しくありません。丈夫な種なので、条件が整えば自然に抱卵します。
コツ 高水温に弱いので、夏場は水温が28℃を超えないように注意します。
Caridina multidentata / Amano shrimp
かんたんに言うと
コケ取り最強で常に売れるのに、幼生が汽水でないと育たず家庭ではほぼ殖やせない。売れるのに作れない、ミナミの真裏の魚です。
繁殖のしやすさ
とても難しい
1回の産仔数
500〜4000匹
初産は少なく、成熟したメスほど多く産む
実売単価(1匹)
39〜162円
通販・店頭の実売。あなたが売るときの競合値でもある
ヤマトヌマエビは、水草水槽のコケ取り生体として最も定番のエビです。ヌマエビの仲間では比較的大きく(メスは4〜5cm)、1匹あたりのコケ処理能力が高いのが特徴で、ミナミヌマエビやオトシンクルスが食べない糸状藻(アオミドロ)まで食べる「コケ取り最強クラス」として知られます。だから需要は堅く、ショップでは常に売れます。
ところがこの魚は、当サイトのオトシンクルスと同じ「売れるのに、個人には作れない」魚です。理由はその変わった生活史にあります。ヤマトヌマエビは両側回遊性といって、成体は川(淡水)で暮らしますが、生まれた幼生(ゾエア)は一度海(汽水〜海水)へ下って育ち、稚エビになってから川へ遡上します。つまり、幼生は汽水がないと育たず、淡水の家庭水槽では原理的に増やせないのです。抱卵も孵化もしますが、孵った幼生を淡水に置いておくと、数日で全滅します。
この点が、隣に並ぶミナミヌマエビと決定的に違います。ミナミは淡水の水槽で放っておくだけで勝手に爆殖し、通販では100匹単価が27円まで落ちます。ヤマトは、同じ100匹単価でも39円とミナミより高いのに、家庭では殖やせない。「増やせるが安すぎて売れないミナミ」の真裏が、「高く売れるのに増やせないヤマト」なのです。
では市場のヤマトはどこから来るのか。汽水での幼生飼育はコストがかかり、大規模な養殖は天然採集に見合いません。そのため業者ですら「作る」より「獲る・輸入する」を選び、流通する「国産」の多くは日本の川からの天然採集品、別ラインで台湾産が輸入されています。個人が繁殖で参入する余地は、ここにもありません。
なお、繁殖の手順自体は下にきちんと6段階で書けます(汽水設備を用意して100匹以上の稚エビを育てた実践者もいます)。ただ、その手順の到達点が「割に合わない」ことを、価格が突きつけてきます。詳しくは下の採算の項をご覧ください。
親を用意してから、稚魚が出荷サイズに育つまでの流れ。帯の長さが、その段階にかかる日数の目安です。
親魚を繁殖できる状態に持っていく
繁殖行動が起きる
孵化までの管理
卵から出てくる
出荷サイズまで育てる
販売できるサイズに到達
まずオスとメスを複数匹(5〜10匹程度)、一緒に飼います。ヤマトヌマエビは雌雄判別がしやすく、メスは大きく寸胴で、体側の斑紋が点と破線の交互、オスは点が並ぶ点線状です。水温は20〜26℃、コケや沈下性の餌を切らさないようにして、じっくり太らせます。この段階は難しくありません。丈夫な種なので、条件が整えば自然に抱卵します。
コツ 高水温に弱いので、夏場は水温が28℃を超えないように注意します。
メスが脱皮して交尾すると、腹の脚(腹肢)に卵塊を抱えます。これが抱卵です。卵の数は1匹あたり数百〜数千個(情報源によって幅があります)。産みたての卵は緑褐色〜濃い緑色で、孵化が近づくと黒っぽくなり、よく見ると幼生の眼点が見えてきます。ここまでは、淡水の家庭水槽でもふつうに起こります。問題はこの先です。
撮影: Jolielover / CC BY 4.0
注意 抱卵しても、そのまま淡水で管理していては幼生は育ちません。汽水の準備をこの時点から始めてください。
卵が黒っぽくなって孵化が近づいたら、抱卵メスを産卵箱やサテライト、別容器へ移してエアレーションをかけます。孵化した極小の幼生を、本水槽のフィルターに吸われたり他の生体に食べられたりしないように守るためです。隔離中は糞が多く出て水が汚れやすいので、毎日スポイトで底の汚れを吸い出します。
コツ 隔離のタイミングが早すぎるとメスがストレスで脱卵することがあります。孵化直前を狙います。
孵化した幼生(ゾエア)は体長1〜1.5mmほどで、親とは似ても似つかない、プランクトンのような姿で漂います。ここがヤマトヌマエビ繁殖の最大の分かれ道です。この幼生は淡水では育ちません。孵化直後は淡水でも数日は生きますが、そのまま置いておくと必ず全滅します。孵化を確認したら、すぐ次の汽水への移動に進みます。
注意 「淡水でも数日は生きている」ことに油断しないでください。淡水のままでは、まず間違いなく全滅します。これが最も多い失敗です。
孵化した幼生を、人工海水の素で作った汽水(目安は海水の6〜7割程度の濃さ。実践者によって条件はばらつきます)へ移します。水温は20℃前後。幼生の餌は植物プランクトンで、グリーンウォーターやPSB(光合成細菌)、粉餌などを毎日少量与えます。水換えのときは、幼生が光に集まる性質を利用して、吸い出さないように選別します。孵化から約1か月・9回の脱皮を経て、体長4〜5mmの稚エビへ変態します。この1か月の付きっきりの管理が、この魚の繁殖の本体です。
注意 餌不足・水温・汽水濃度のどれを外しても幼生は落ちます。実践者でも生き残るのは少数で、成功率は高くありません。
稚エビが変態して底を歩き出したら、数日かけて少しずつ塩分を下げ、淡水へ戻します。ここまで来れば、あとは親と同じように育てられます。ただ、売ることを考えているなら、投じた手間を思い出してください。汽水設備を用意し、1か月付きっきりで幼生を管理して得た稚エビは、通販なら100匹4,300円=1匹39円で、いつでも大量に買えるものです。手順は踏めても、採算はまったく合いません。
注意 飼いきれない個体を川へ放すのはやめてください。分布域外への放流は生態系の攪乱になります。
2026年7月18日時点の調査。相場は品種・グレード・時期で変動します。
実売相場(1匹)
39〜495円
通販・店頭の実売価格。あなたが買う値段でもあり、売るときの競合でもある=ここに利ざやは出ない
| 繁殖形態 | 抱卵 — エビが腹脚に卵を抱えて孵化まで運ぶ。稚エビは親と同じ形で産まれ、そのまま同居で育つ。 |
|---|---|
| 別名 | ヤマト、アマノシュリンプ、Caridina japonica |
| 飼育のしやすさ | 簡単 |
| 成魚サイズ | 35〜50mm |
| 寿命 | 2〜4年 |
| 適水温 | 15〜28℃ |
| pH | 7〜8 |
| 硬度(GH) | 4〜10 |
| 産卵から孵化まで | 14〜28日 |
| 稚魚の初期飼料 | (幼生)グリーンウォーター・PSB(光合成細菌)・粉餌などの植物プランクトン系。ただし汽水でしか育たない |
| 親の隔離 | 不要 |
| 雌雄の見分け方 | メスのほうが明確に大きく、寸胴。見分けの決め手は体側の斑紋で、オスは点が並ぶ「点線状」、メスは点と破線が交互に並ぶ。抱卵しているメスは腹に卵塊を抱えるので一目で分かる。 |
| 原産地 | 日本、台湾、韓国 |
| 生息環境 | 日本(日本海側は鳥取以西、太平洋側は千葉以南)〜インド太平洋の河川。両側回遊性で、成体は淡水、幼生は海/汽水で育ち遡上する。流通個体の多くは天然採集または台湾からの輸入。 |
| 入手先 | 量販店、専門店、通販、オークション |
繁殖そのものより、ここでつまずく人のほうが多いです。
英名の「Amano shrimp(アマノシュリンプ)」は、水草レイアウトの世界的な第一人者・天野尚(あまの たかし)氏に由来します。氏がコケ取り生体として本種を広く使い、その名が英語圏に定着しました。
学名にも少し歴史があります。長く Caridina japonica(デ・マン, 1892)と呼ばれてきましたが、2006年の分類学的な再検討で、スティンプソンが1892年より32年も前の1860年に Caridina multidentata として記載していたことが確認され、先取権のある multidentata が正式な学名になりました。japonica は現在シノニム(無効な別名)です。日本の通販では今も旧名で表記されることがあります。
【価格】2026-07-18 に charm(チャーム)の実売検索結果で確認(在庫あり・確度高)。国産ヤマトは5匹810円=162円/匹、10匹1,040円=95円/匹、20匹1,000円=45円/匹、100匹4,300円=39円/匹(まとめ買いで急落。20匹1,000円が10匹1,040円より安いという逆転もある)。台湾ヤマト(トロピカルシュリンプ)20匹1,900円=95円/匹、改良品種スノーホワイト10匹4,950円=495円/匹(別物)。対照として、家庭で殖える既掲載のミナミヌマエビは同日 charm で10匹810円=74円/匹、100匹2,990円=27円/匹。100匹単価でヤマト39円 vs ミナミ27円=ヤマトの方が高いのに、ミナミは家庭で殖え、ヤマトの国産は殖やせない=供給構造が真逆。個人販路はメルカリが生体禁止のため実質ヤフオク一択で、落札は50〜100匹単位のセットが主。市場流通の大半は天然採集または台湾輸入と推定される(汽水幼生の育成コストが高く大規模養殖が天然採集に見合わないため。masukoap・東京アクアガーデン。学術一次ではなく解説サイト由来で確度中〜高)。
【学名】現行有効名 Caridina multidentata Stimpson, 1860(WoRMS AphiaID 586329)。旧名 Caridina japonica De Man, 1892 は junior synonym(2006年の再検討で Stimpson の記載が32年先取権を持つと判明。J. Crustacean Biology 26(3):392, 2006)。日本の通販は今も旧名表記が残る。
【繁殖数値の食い違い・裏付けの弱い項目】産卵数は飼育系サイトが1,000〜4,000個、一般には数百〜2,000個説もあり割れるため、幅(500〜4,000)で入れ断定を避けた。抱卵〜孵化は約2週間〜1か月(14〜28日)。幼生を育てる汽水の濃度は「海水の約6〜7割」とされるが、比重・塩分(‰)の一次確定値は弱く実践者でばらつくため本文では幅で書いた。性成熟の月齢・出荷サイズまでの日数・家庭での生存率は信頼できる数値が無く null(家庭での幼生生存率は総じて低い)。寿命は飼育系2〜3年(良好で4年超)と Wikipedia系5年以上で割れるため24〜48か月を主とし長寿説を注記した。
【繁殖が「できるが割に合わない」こと】幼生(ゾエア)は汽水がないと育たず、淡水水槽では孵化しても数日で全滅する。実践者は抱卵メスを隔離→孵化→海水の6〜7割の汽水へ移動→グリーンウォーター等で1か月(9回脱皮)育成→稚エビ着底後に段階的に淡水へ戻す、という手順で100匹以上を育てた例がある。手順は6段階で書けるが、成功には汽水設備と1か月の付きっきりの管理が要り、得られる稚エビの価値は charm の100匹4,300円(1匹39円)に勝てない。
【主な情報源】WoRMS(586329)、J. Crustacean Biology 26(3):392(2006)、Wikipedia(英・日)、aquarium-dictionary、aquakaido、masukoap、東京アクアガーデン、charm(実売)、ヤフオク・aucfan(落札相場)。
親の入手から稚魚(針子)の育成まで、種をまたいで共通するコツがあります。繁殖に挑むならあわせてどうぞ。
抱卵
Neocaridina denticulata
水槽が安定していれば何もしなくても殖えます。ただし1匹27円で売られており、売り物にはなりません。
抱卵
Neocaridina davidi
ミナミヌマエビと同じ手軽さで殖え、色がつくぶん少し高く売れます。ただし混ぜると色が消えます。
抱卵
Caridina logemanni
単価はミナミの10倍近くありますが、水質の作り込みと選別が要り、相場は下降局面です。